司法修習生の給費制,貸与制及び修習給付金


目次
第1部 司法修習生の給費制,貸与制及び修習給付金に関する公式の説明等
第1 司法修習生の給費制

1 昭和22年の給費制導入
2 司法官試補及び弁護士試補が合体したものとしての司法修習生
3 昭和23年の,裁判官の報酬等に関する法律の制定
4 給費制時代の給与
5 関連記事
第2 司法修習の期間を1年6月とした,平成10年の裁判所法改正
1 平成10年の裁判所法改正
2 平成10年の裁判所法改正前の取扱い
3 掲載資料及び関連記事
第3 司法修習生の給費制を廃止した,平成16年の裁判所法改正
1 平成16年の裁判所法改正
2 修習資金貸与制の内容
3 司法修習生の給費制の廃止理由
4 貸与制に移行しても司法修習生の法的地位に何ら変化はないとされたこと
5 平成16年の裁判所法改正に関する日弁連会長談話
6 掲載資料及び関連記事
第4 司法修習生の給費制を1年延長した,平成22年の裁判所法改正(議員立法)
1 平成22年の裁判所法改正までの経緯
2 平成22年の裁判所法改正の内容
3 平成22年の裁判所法改正に伴う予算措置
4 平成22年の裁判所法改正が裁判所の現場に与えた影響
第5 平成23年11月採用の新65期司法修習生から修習資金貸与制が開始したこと
1 修習資金貸与制が開始するまでの経緯
2 平成23年11月1日,民主党が給費制廃止の政府方針を了承したこと
3 給費制を維持すべきとの見解から述べられた意見
4 修習資金貸与金の返還開始時期
5 関連記事
第6 67期ないし70期の司法修習生に対する経済的支援,及び68期司法修習で開始した導入修習
1 平成25年11月開始の,67期ないし70期の司法修習生に対する経済的支援
2 平成26年11月採用の68期司法修習で開始した導入修習
第7 修習給付金制度を創設した,平成29年の裁判所法改正
1 修習給付金制度の発表開始前の経緯
2 平成28年12月の,修習給付金制度創設のための裁判所法改正予定の表明
3 平成29年の裁判所法改正の内容
4 修習給付金制度に関する国会答弁
5 貸与制導入時からの状況の変化が考慮されていること
6 掲載資料
第8 谷間世代となった新65期ないし70期司法修習生に対する対応
1 谷間世代の存在
2 最高裁判所の対応
3 法務省の対応
4 日弁連の対応
5 名古屋高裁令和元年5月30日判決の付言
第9 法務省としては,従前の給費制に戻すことは考えていないこと
第10 令和元年制定の大学等修学支援法に関する内閣法制局審査資料等
1 職業訓練の実施等による特定求職者の就職の支援に関する法律(平成23年5月20日法律第47号)に関する資料
2 平成28年の所得税法改正に関する資料(学資金関係に限る。)
3 独立行政法人日本学生支援機構法の一部を改正する法律(平成29年3月31日法律第5号)に関する資料
4 大学等における修学の支援に関する法律(令和元年5月17日法律第8号)に関する資料

第2部 基本給付金は,日本学生支援機構の給付型奨学金と同様に非課税所得としての学資金であるという個人的主張
第1 基本給付金の趣旨目的を考慮することで,基本給付金が学資金に該当するかどうかを判断することが許容されること
1 規定の趣旨目的を考慮することは許容されること
2 基本給付金が所得税法9条1項15号の学資金に含まれると解したとしても,学資金という文言の通常の意味内容から乖離するとまではいえないこと
3 小括
第2 両者の給付の目的が類似していること
第3 両者の給付の趣旨が類似していること
1 給付型奨学金が賄うことを想定している生活費としての「学生が学業に専念するため、学生生活を送るのに必要な生活費」の内容
2 基本給付金が賄うことを想定している生活費の内容は,「学生が学業に専念するため、学生生活を送るのに必要な生活費」と類似していること
3 小括
第4 基本給付金の金額は,非課税所得としての生活費の金額規模として社会通念上妥当なものであること
1 基本給付金の金額の設定根拠
2 学生との公平性の観点からは特に問題がないこと
3 他の社会人との公平性の観点からは全く問題がないこと
4 司法修習生の経済的負担は一段と増えたこと
5 小括
第5 基本給付金の支給対象となる司法修習生について学費負担がないことは,基本給付金の学資金該当性を否定する事情とはならないこと
1 学費負担が存在することを不可欠の理由として給付型奨学金が学資金に該当するとされているわけではないこと
2 学費負担を高等教育の不可欠の条件としない国際水準の達成を目指すべき行動義務が日本国政府にあること
3 司法修習は,社会権規約13条2項(c)がいうところの高等教育に含まれること
4 小括
第6 基本給付金の支給対象となる司法修習生について所得制限がないことは,基本給付金の学資金該当性を否定する事情とはならないこと
1 受給者が経済的理由により修学に困難がある者に限定されているかどうかは,学資金への該当性を左右する事情ではないこと
2 基本給付金について所得制限がないことに関しては合理的理由があること
3 基本給付金には課税所得となるべき担税力がないこと
4 基本給付金は学資金に該当すると解することで,法曹人材確保の充実・強化という修習給付金の制度趣旨を全うする必要性は年々高まっていること
5 小括
第7 基本給付金は学資金に該当しないという現時点の取扱いは,文部科学省及び厚生労働省と異なり,最高裁判所及び法務省が税務当局との間で司法修習生の利益を守るための協議を特に行わなかった結果に過ぎないことからしても,現状の取扱いを維持すべき合理的理由はないこと
1 文部科学省は学生の利益を守るために税務当局との間で巧みな手段で協議をした結果,給付型奨学金の非課税化を実現したこと
2 厚生労働省は医師の利益を守るために税務当局との間で巧みな手段で協議をした結果,医師の修学等資金の債務免除益の非課税化を実現したこと
3 最高裁判所及び法務省は,司法修習生の利益を守るために税務当局との間で協議をしなかったこと
4 小括
第8 その他の主張
1 修習給付金案内の記載は,基本給付金の税務上の取扱いを決定する理由とはならないこと
2 基本給付金が「学資として支給する資金」と明記されていないことは,学資金への該当性を否定する理由とはならないこと
3 基本給付金について非課税とする旨の立法上の措置が講じられなかった理由が異なること
4 法科大学院奨学金との整合性を考慮すべきであること
5 文化功労者年金の取扱いとの整合性を考慮すべきであること
6 法令用語としての「学資金」の使用例
第9 結論

第3部 その他
第1 給付型奨学金の位置づけが基本給付金の学資金該当性に与える影響
1 国税庁に対する説明内容を前提とした場合の影響
2 内閣法制局に対する説明内容を前提とした場合の影響
3 国会に対する説明内容を前提とした場合の影響
第2 司法修習生に関する裁判所法の条文
第3 関連記事その他


第1部 司法修習生の給費制,貸与制及び修習給付金に関する公式の説明等

第1 司法修習生の給費制

1 昭和22年の給費制導入
(1) 裁判所法(昭和22年4月16日法律第59号)57条2項(司法修習生は、その修習期間中、国庫から一定額の給与を受ける。)のほか,裁判官の報酬等の応急的措置に関する法律(昭和22年4月17日法律第65号)(昭和22年5月3日施行)(リンク先の「閲覧」タブをクリックすれば,御署名原本を閲覧できます。)8条及び9条に基づき,
    司法官試補が昭和22年5月3日に高輪1期又は高輪2期の司法修習生に切り替わった時点で(裁判所法施行令18条参照),司法修習生の給費制が導入されました(ただし,給費の金額については昭和22年12月31日までの応急的措置でした。)。
(2) 裁判官の報酬等の応急的措置に関する法律8条及び9条は以下のとおりです。
第8条
①   司法修習生の受ける給与の額は、当分の間、最高裁判所の定めるところによる。
② 前項の給与については、第五条及び第六条の規定を準用する。
③ 司法修習生には、第一項の給与の外、当分の間、一般の官吏の例による給与を支給することができる。
第9条
    裁判官の報酬及び司法修習生の給与等に関する細則は,最高裁判所がこれを定める。
(3) 帝国議会会議録検索システムにおいて「司法修習生」で検索しても司法修習生について給費制を導入した理由に関する答弁は見当たりません。
    また,22期の山崎潮内閣官房内閣審議官(内閣官房副長官補付)の平成16年12月1日の参議院法務委員会における国会答弁でも,弁護士の卵についてまで給費制を導入した理由に関して「国会の議事録、余りはっきり言っているものがないわけでございます」と書いてあります。
(4) 裁判所法逐条解説(中巻)397頁には「法曹の資格要件としての司法修習生の地位の重要性にかんがみ、これに人材を吸収し、また修習に専念させる等の見地から、とくに一定額の給与が支給されることとされたものである。」と書いてあります。
2 司法官試補及び弁護士試補が合体したものとしての司法修習生
(1) 首相官邸HPの「法曹一元について(参考説明)」(平成12年4月25日付)には「裁判所法によって司法修習制度が新設され、従来の司法官試補と弁護士試補とは合体した形となって、養成段階である出発点における法曹一元が実現された。」と書いてあります。
(2)ア 判事及び検事の卵であった司法官試補には給与が支給されていたのに対し,弁護士の卵であった弁護士試補には給与が支給されていなかったものの,司法修習制度の創設に伴い弁護士の卵にも給与が支給されるようになりました。
イ 司法官試補は官吏でないものの,奏任官待遇が与えられていたのに対し,弁護士試補は官吏ではなく,官吏待遇でもありませんでした(裁判所法逐条解説(中巻)384頁)。
(3) 司法官試補としての正式な採用は昭和18年採用の29期まででしたが,終戦直後に司法官試補に採用されて,昭和22年5月3日の裁判所法改正前に修習を終了した人については司法官試補30期(例えば,第10代最高裁判所長官の寺田治郎裁判官)と呼ばれることがあります(「司法省司法研究所の沿革」参照)。
(4) 司法官試補に対応する弁護士試補の制度は,弁護士法(昭和8年5月1日法律第53号)に基づき,昭和11年4月1日に開始しましたところ,東京弁護士会百年史447頁には弁護士試補の生活問題に関して以下の記載があります。
     昭和一三年ごろからは、修習にさしつかえなく、試補の品位を汚さず、かつ、会の許可を受けた場合には、他の職業に就き、あるいは、内職をすることはさしつかえないという方針がとられた。国庫補助金を大幅に増加すべき旨の決議、弁護士試補の無給制は、司法官試補と比べてまことに不平等であるからその有給制実現のためにたたかうべきであるという意見、修習開始後六カ月を経た試補に対しては、指導弁護士の事件にかぎり復代理人又は代理人として実務をとらせる等の意見もしきりに出された。しかし、官尊民卑、「正業に就け」といわれる軍国主義時代の中で、弁護士会の力も弱く、いずれも、実現するに至らなかった
3 昭和23年の,裁判官の報酬等に関する法律の制定
    裁判官の報酬等に関する法律(昭和23年7月1日法律第75号)(公布日施行であるものの,俸給その他の給与(旅費は除く。)の額に関する規定は昭和23年1月1日に遡及して適用されたことにつき同法付則1項)により,裁判官の報酬等の応急的措置に関する法律は廃止されました。
    しかし,同法第14条は,「裁判官の報酬等の応急的措置に関する法律(昭和二十二年法律第六十五号)は、これを廃止する。但し、司法修習生の受ける給与については、なお従前の例による。」と定めていましたから,司法修習生の給与の額等については応急的措置のままとなりました。
4 給費制時代の給与
(1)ア 司法修習生の給費制時代の給与は,「給与」として支給されていたわけですから,税務上の取扱いは給与所得でした。
イ 給与所得とは雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいう(最高裁昭和56年4月24日判決)ものの,例えば,会社との間で委任関係となる役員の給料は給与所得です(国税庁HPの「No.2508 給与所得となるもの」参照)。
(2)ア 平成16年の裁判所法改正当時となる司法修習生の給与は以下のとおりでした。
給与月額(本俸):20万2900円
調整手当(平均額):1万3000円
→ 調整手当は,平成18年度に導入が開始した地域手当に相当する手当でした。
寒冷地手当(平均額):1000円
期末手当(平均額・月割):4万2000円
勤勉手当(平均額・月割):2万円
扶養手当:1万3500円(配偶者),6000円(子ども一人当たり)
住居手当:家賃の約半額(上限額は2万7000円)
通勤手当:交通費実費(上限額は5万5000円)
イ 給費制時代につき,71期以降の司法修習生に対する移転給付金に相当する手当はありませんでした。
(3) 最高裁昭和42年4月28日判決は「これらのこと(山中注:司法修習生の給費制,兼職禁止,守秘義務等)はすべて、司法修習生をして右の修習に専念させるための配慮ないしはその修習が秘密事項に関することがあるための配慮にすぎないのであり、司法修習生の勤務形態が国の事務に従事する職員に類似し又はこれに準ずる形式ないし実態があるからではない。」と判示しています。
5 関連記事
・ 昭和22年の司法修習生の給費制導入

裁判所法の一部を改正する法律案について(司法修習生に対する修習資金の貸与制)と題する法務省文書(平成16年9月13日付)からの抜粋です。

第2 司法修習の期間を1年6月とした,平成10年の裁判所法改正
1 平成10年の裁判所法改正
 裁判所法の一部を改正する法律(平成10年5月6日法律第50号)による改正後の裁判所法67条2項は,「司法修習生は、その修習期間中、国庫から一定額の給与を受ける。ただし、修習のため通常必要な期間として最高裁判所が定める期間を超える部分については、この限りでない。」となり,第53期司法修習以降については,司法修習の期間が1年6月となるとともに,二回試験の合格留保者に対する給与の支給が廃止されることとなりました。
2 平成10年の裁判所法改正前の取扱い
(1)ア 司法修習生に対して給与が支給される根拠と裁判所法67条2項の改正の趣旨について(平成10年2月4日付の法務省文書)には以下の記載があります。
 現在,修習生に対する給与については,所定の2年間の修習期間のみならず,その修習期間経過後も,例えば,二回試験を受験したが合格留保となった者に対しては,追試により合格して修習を終了するまでの間,これが支給されている。
イ 裁判所法逐条解説(中巻)396頁ないし398頁には,「司法修習生は、その修習期間中、国庫から一定額の給与を受ける。」と定める当時の裁判所法67条2項の解説が載っていますところ,例えば,「病気その他の正当な理由によって修習しないときでも罷免されない限り給与を受けることができる。」と書いてあります。
(2) 22期の山崎潮 法務大臣官房司法法制調査部長は,平成10年4月10日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています(ナンバリングを追加しています。)。
① まず結論から申し上げますと、現在、二回試験を受けまして、合格留保と言っておるわけでございますが、残念ながら受からなかった人でございますけれども、そのまま修習生の身分を継続いたしまして、追試の機会がございます。その追試の機会で合格すればそれで卒業するんですが、そのときまで給与の支給を受けております。
 今回は、そういう関係からいきますと、通常二回試験を受けまして、新制度では一年六月、約一年六カ月になるわけでございます。もちろん、その期間については若干年によって出入りがございますので、最高裁判所の方で定めるわけでございますが、そこの期間を過ぎたら、今度は修習生の身分は残りますけれども給与は出ない、こういうふうに変わるわけでございます。
② (山中注:司法修習生の給与が)どういう理由で出るのかということでございますけれども、やはり法曹というのは非常に公的な仕事でございますから、大事なものですから、給与を支給して修習に専念をさせるということになるのだろうと思うのです。
(3) 28期から52期までの二回試験の場合,不合格により罷免された司法修習生はいなかったのに対し,69期以降の二回試験の場合,一科目でも不合格になった司法修習生については,二回試験の不合格発表の翌日にある最高裁判所裁判官会議の決議をもって,同日付で一律に罷免されるようになりました(「二回試験不合格時の一般的な取扱い」参照)。
3 掲載資料及び関連記事
(1) 以下の資料を掲載しています。
・ 内閣法制局の法律案審議録(内閣法制局開示分)
→ 形式的な内容の文書です。
・ 内閣法制局の法律案審議録(法務省開示分)
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 司法修習生の給費制に関する,平成10年の裁判所法改正

第3 司法修習生の給費制を廃止した,平成16年の裁判所法改正
1 平成16年の裁判所法改正

(1) 現行64期までの司法修習生については,「司法修習生は、その修習期間中、国庫から一定額の給与を受ける。ただし、修習のため通常必要な期間として最高裁判所が定める期間を超える部分については、この限りでない。」と定める裁判所法67条2項に基づき,給与の支給を受けていました(司法修習生の給費制)。
    しかし,裁判所法の一部を改正する法律(平成16年12月10日法律第163号)による改正後の裁判所法67条2項は,「司法修習生は、その修習期間中、最高裁判所の定めるところにより、その修習に専念しなければならない。 」となり,平成22年11月1日からの給費制の廃止,修習資金貸与制の導入が決定されました。
(2) 裁判所法の一部を改正する法律(平成16年12月10日法律第163号)3項は,裁判官の報酬等に関する法律(昭和23年7月1日法律第75号)14条ただし書を削りました。
(3) 平成16年の裁判所法改正では当初,新60期司法修習生から貸与制を導入することを前提に,平成18年11月1日から施行することが予定されていました(「裁判所法の一部を改正する法律案」(第161回国会閣法第7号)付則1項参照)。
    しかし,貸与制実施の延長を求める日弁連の活動(平成16年6月14日付の「司法修習給費制の堅持を求める緊急声明」参照)等の結果,裁判所法の一部を改正する法律案に対する修正案が可決されたため,平成22年11月1日から施行される予定ということに変更されました。
2 修習資金貸与制の内容
(1) 修習資金の交付は,最大で,司法修習生に採用された年の12月から翌年12月までの合計13回でした。
(2) 13ヶ月間貸与される修習資金の貸与月額は,以下のとおりです(司法修習生の修習資金の貸与等に関する規則3条1項及び2項)。
① 基本額未満の貸与を希望する場合,18万円(貸与額の合計は234万円)
② 基本額の場合,23万円(貸与額の合計は299万円)
③ 配偶者,子等がある場合,25万5000円(貸与額の合計は331万5000円)
④ 家賃を支払っている場合,25万5000円(貸与額の合計は331万5000円)
→ マンスリーマンションであっても住居加算が認められることがあります。
⑤ ③及び④のいずれにも該当する場合,28万円(貸与額の合計は364万円)
(3) 裁判所HPの「司法修習生の修習専念資金の貸与等について」に,司法修習生の修習資金の貸与等に関する規則(平成21年10月30日最高裁判所規則第10号)及び修習資金貸与要綱が載っています。
3 司法修習生の給費制の廃止理由
(1) 裁判所法の一部を改正する法律案について(司法修習生に対する修習資金の貸与制)と題する法務省文書(平成16年9月13日付)別紙1・4頁(リンク先のPDF15頁)には以下の記載があります。
(注)以前の財政経済事情と数百人体制の予算額(司法修習生の数は長年の間500人程度にとどまっていた。)の状況の下では,法曹の社会的使命の重要性にかんがみ,司法修習に専念する義務を担保して司法修習制度を経済的に支えるための方策として,公務員でなく公務にも従事しない者に対する給与の支給という特例的な取扱いについても一定の社会的な理解が得られていたものと考えられるが,現下の厳しい財政経済事情と増大する財政負担の状況の下で,今後の法曹人口の更なる拡大や司法制度全体の財政負担の増大等の諸事情も踏まえれば,前記のような給費制に対する批判(山中注:司法修習は個人が法曹資格を取得するための課程である以上,負担と受益の観点からは司法修習生が自ら必要な経費を負担すべきであるなどの批判)のあることをも考慮して,今後の司法修習生に対する経済的支援の在り方について,国民の理解が得られる制度を再構築することが不可欠の状況に立ち至っているといわざるを得ない。
(2) 41期の小出邦夫法務省大臣官房司法法制部長は,平成30年3月20日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています(ナンバリングを追加しています。)。
① 司法修習生につきましては、昭和二十二年の裁判所法制定以降、給費制がとられておりまして、平成二十三年七月から修習を開始した旧六十五期の司法修習生まで給与及び手当が支給されておりました。
    給費制から貸与制への移行でございますが、平成十六年の裁判所法改正によるものでございまして、貸与制は、平成二十三年十一月に修習を開始した新六十五期の司法修習生から実施されたところでございます。
② この給費制から貸与制への移行の理由でございますが、
   司法修習生の増加に実効的に対応する必要があったこと、
   また、司法制度改革の諸施策を進める上で、限りある財政資金をより効率的に活用し、司法制度全体に関して国民の理解を得られる合理的な財政負担を図る必要があったこと、
   また、公務員ではなく、公務にも従事しない者に国が給与を支給するのは現行法上異例の制度であること
   などを考慮しますと、給費制を維持することについて国民の理解を得ることは困難だと考えられたことによるものでございます。

③ その後、法曹志望者数が大幅に減少いたしまして、これに実効的に対応する必要があるなど、貸与制に移行した後の大きな状況の変化が認められましたことから、法曹人材確保の充実強化の推進を図るとともに、司法修習の実効性の一層の確保を図るため、昨年の裁判所法改正により、貸与金額を見直した貸与制と併存させる形で、修習給付金の支給を内容とする新たな制度が創設され、昨年十一月に修習を開始した七十一期の司法修習生から実施されているという状況でございます。
4 貸与制に移行しても司法修習生の法的地位に何ら変化はないとされたこと
 37期の小川秀樹法務省民事局長は,平成25年10月30日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています。
    まず、お尋ねのありました、修習生の法的な立場について御説明いたします。
    司法修習生は、先ほどからもお話がありますように、公務員ではございませんで、裁判所法上、法曹に必要な能力を身につけるための修習を行うべき者と位置づけられております。このような司法修習生の法的地位は、平成十六年の裁判所法改正により給費制から貸与制に移行しても何ら変更されていないものと承知しております。
    なお、司法修習生は公務員ではございませんが、従前は給与の支給が公務員に準じて行われていたことから、その意味で、公務員に準じた面があったものと承知しております。
    次に、労働基準法との関係でございますが、司法修習生は、公務員に準ずる、準じないとは別に、いずれにせよ事業または事務所に使用される者ではなく、労働基準法上の労働者の性質は有しないということでございますので、労働基準法の適用はないとされてきたものと承知しております。 
5 平成16年の裁判所法改正に関する日弁連会長談話

(1) 平成16年12月3日付の日弁連会長談話(第161回臨時国会の終了にあたって)には以下の記載があります。
    本日、第161回臨時国会が会期満了により終了した。今国会において審議された司法制度改革に関連する法案のうち「裁判外紛争解決手続の利用の促進等に関する法律案(ADR法案)」及び「裁判所法の一部を改正する法律案(司法修習生への給費制廃止)」の2法案は可決成立し、「民事訴訟費用等に関する法律の一部を改正する法律案(弁護士報酬の敗訴者負担制度)」は廃案となった。今臨時国会は、司法制度改革推進本部の設置期限が平成16年11月末とされたその最終の国会であり、今次司法制度改革における立法は基本的に完了した。
(2) 平成16年度につき,日弁連会長は19期の梶谷剛弁護士(第一東京・全期会)であり,日弁連事務総長は25期の山岸憲司弁護士(東京・法曹親和会)でした(「日弁連の歴代会長及び事務総長」参照)。
6 掲載資料及び関連記事
(1) 以下の記事も参照してください。
・ 内閣法制局の法律案審議録(内閣法制局開示分)
→ 形式的な内容の文書です。
・ 内閣法制局の法律案審議録(法務省開示分)
→ 裁判所法の一部を改正する法律案について(司法修習生に対する修習資金の貸与制)と題する法務省文書(平成16年9月13日付)が含まれています。
(2) 以下の記事も参照してください。

・ 司法修習生の給費制に関する,平成16年の裁判所法改正

第4 司法修習生の給費制を1年延長した,平成22年の裁判所法改正(議員立法)
1 平成22年の裁判所法改正までの経緯

(1) 平成22年3月10日の再投票で当選し,同年4月1日に日弁連会長に就任した宇都宮健児弁護士の主導により,日弁連は,給費制の存続を訴える活動を開始し(日弁連HPの「司法修習生に対する給費の実現と充実した司法修習を」参照),同年5月28日の定期総会において,市民の司法を実現するため、司法修習生に対する給費制維持と法科大学院生に対する経済的支援を求める決議を出しました。
(2) 法科大学院協会理事長は,平成22年10月12日,「修習生の給費制維持は司法制度改革に逆行(理事長所感)」(リンク切れ)を発表して,司法修習生の給費制を維持することに反対しました。
(3) 平成22年11月18日午前5時,司法修習生の給費制を1年延長するための裁判所法改正を議員立法で行う予定であることがNHKで報道されました。
(4) 司法修習生の給費制の1年延長を定めた裁判所法の一部を改正する法律案(第176回国会衆法第13号)は,平成22年11月24日に衆議院に付託され,翌25日,衆議院本会議で可決され,翌26日,参議院本会議で可決成立しました(衆議院HPの「議案審議経過情報」参照)。
2 平成22年の裁判所法改正の内容
(1) 新64期司法修習が開始する前日である平成22年11月26日,給費制を1年間延長する旨の裁判所法改正法が成立しました。
   その結果,同年11月1日から平成23年10月31日までに採用された司法修習生(具体的には,新64期及び現行65期の司法修習生)は,裁判所法の一部を改正する法律(平成22年12月3日法律第64号)(同日施行)による改正後の裁判所法付則4項・67条2項に基づき,1年間の修習期間中,国庫から一定額の給与(本俸月額は20万4200円)を受けることができることとなりました(詳細につき,司法修習生の給与に関する暫定措置規則(平成22年12月9日最高裁判所規則第11号)参照)。
(2) 司法修習生の貸与制は平成22年11月1日にいったん開始していましたから,同年12月3日,同年11月1日に遡及して,新64期司法修習生に対して給費制が適用されることとなりました。
3 平成22年の裁判所法改正に伴う予算措置
(1)ア 新64期及び現行65期の司法修習生に対する給費制を存続する際,最高裁判所長官は,財務大臣に対し,平成22年12月27日付で予算流用等承認要求を行い,財務大臣は,最高裁判所長官に対し,平成23年1月4日付で予算流用等承認を通知しました(財政法33条2項及び3項のほか,「平成22年度一般会計歳出予算流用等の承認要求書及び承認通知書」参照)。
    具体的には,「修習資金貸与金」という目から,「司法修習生手当」という目に,20億4676万2000円を流用しました。金額については,平成22年12月から平成23年3月までの分と思われます。
イ 裁判所所管の一般会計歳出予算各目明細書における①最高裁判所,下級裁判所,検察審査費,裁判費,裁判所施設費及び裁判所予備経費という「項」の区分,及び②職員基本給,職員諸手当といった「目」の区分は国会の議決事項であり(財政法23条及び31条),③各目の経費の金額の流用は,財務大臣の承認を得ることを条件とする各省各庁の長の権限事項です(財政法33条2項)。
(2) 34期の林道晴最高裁判所経理局長は,平成22年11月25日の参議院法務委員会において以下の答弁をしています。
    給費制が一年間延長された場合には、まず、平成二十二年度予算におきまして、この十一月二十七日に採用される予定の修習生、司法修習新六十四期の修習生になりますが、それに係る司法修習生手当あるいは共済組合の関係の負担金等として、合計約二十七億円の予算を計上する必要があります。これにつきましては、裁判所の他の予算を流用する手続を速やかに取ることになると考えております。また、平成二十三年度の予算につきましては、本年の十一月から貸与制に移行することを前提として概算要求を行っておりますので、給費制が一年間延長された場合には、それに応じた予算要求に改めることが必要になります。
(3) 裁判所HPに「裁判所の予算・決算・財務書類」が載っています。
4 平成22年の裁判所法改正が裁判所の現場に与えた影響
・ 37期の菅野雅之最高裁判所事務総局審議官は,平成23年7月13日の第3回「法曹の養成に関するフォーラム」において以下の発言をしました(リンク先の16頁)。
    早いもので,既に次期第65期の修習生が11月には修習を開始するという状況になっております。昨年は,貸与制がいったん施行された後に,私どもがよく分からない状況のもとで,議員立法によりこれを遡及的に延期するという正に異例の事態が起こり,現場には大きな影響が生じて,その対応に苦慮することになりました。今回は昨年とは異なり,正にこういうお忙しい委員の先生方をお迎えしてこのようなフォーラムで議論していただくという大変貴重な機会が設けられているわけですので,私どもとしてもそういう意味では安心しているところでございます。是非このフォーラムで早期にきちんとした結論を出していただけるようにお願いしたいと申し上げます。
5 掲載資料及び関連記事
(1) 以下の資料を掲載しています。
・ 衆議院法務委員長提出予定の裁判所法の一部を改正する法律案に対する国会法第57条の3に基づく内閣の意見要旨(平成22年11月22日付)
→ 「標記裁判所法の一部を改正する法律案については,政府としては,やむを得ないものと認めます。」と書いてありますところ,平成22年11月24日の衆議院法務委員会において朗読されたみたいです。
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 司法修習生の給費制に関する,平成22年の裁判所法改正及びその後の予算措置

第5 平成23年11月採用の新65期司法修習生から修習資金貸与制が開始したこと
1 修習資金貸与制が開始するまでの経緯
(1)ア 平成23年3月11日に東日本大震災が発生しました。
    また,法務省の「法曹の養成に関するフォーラム」は,平成23年8月31日,司法修習生に対する経済的支援の基本的な在り方は,「貸与制を基本とした上で,個々の司法修習終了者の経済的な状況等を勘案した措置(十分な資力を有しない者に対する負担軽減措置)を講ずる。」等とする第一次取りまとめを行いました(法務省HPの「法曹の養成に関するフォーラム」「第一次取りまとめ」及び「概要」参照)。
    そのため,平成23年11月採用の新65期以降については特段の法改正はなされませんでしたから,新65期司法修習生から修習資金貸与制が開始しました。
(2) 法曹の養成に関するフォーラムにおいては,司法制度改革の理念を踏まえるとともに,平成22年7月6日付け「法曹養成制度に関する検討ワーキングチーム」検討結果(取りまとめ)及び同年11月24日付け衆議院法務委員会決議の趣旨を踏まえつつ検討を行うこととされていました(平成23年5月13日付の内閣官房長官等の申し合わせ)。
2 平成23年11月1日,民主党が給費制廃止の政府方針を了承したこと
・ 時事通信社2011年11月1日配信の記事には以下の記載があったみたいです(弁護士作花知志のブログ「司法修習生の給与制が廃止へ」参照)。
「給与制廃止を了承 民主党
民主党は11月1日,司法修習生に月額約20万円を支給する『給費制』を廃止し,無利子の『貸与制』に移行する政府方針を了承することを決めた。党の判断を一任されていた前原誠司政調会長が同日の政調役員会で報告した。
前原氏は記者会見で廃止理由について,『私も父を亡くしてから奨学金を活用し,中,高,大学と学ばせてもらった。借りたものは返済することが法曹界に限らず基本だと思う』と説明。経済的な困窮者には返済猶予措置を講じると強調した。
政府は貸与制移行のための法案を今国会に提出する方針だが,民主党内には給費制存続を求める意見も強く,法務部門会議で議論していた。」
3 給費制を維持すべきとの見解から述べられた意見
    「法曹の養成に関するフォーラム」「第一次取りまとめ」4頁及び5頁には,「給費制を維持すべきとの見解(貸与制導入に支障があるとの見解)」として以下の趣旨の意見が表明されたと書いてあります。
① 法科大学院在学中の学費・生活費及び司法試験合格までの生活費の負担に加え,貸与制導入による経済的負担の増大により,資力に乏しい者が法曹になれなくなるおそれがあること。
② 上記同様,貸与制導入による経済的負担の増大は,法曹志願者が大幅に減少している現状において,とりわけ社会人出身者や他学部出身者を含む法曹志願者減少を更に拡大させ,人材の多様性を確保できなくなるおそれがあること。
③ 給費制は法曹の公共的使命の自覚を促し,弁護士の公共心や強い使命感の醸成を制度的に支え,弁護士の社会への貢献・還元に資するものであること。
④ 給費は,司法修習生が司法研修所長や配属地の高裁長官らの監督に服して修習に専念すべき義務を負い,兼職禁止や守秘義務等の公務員同様の身分上の制約を受ける代償であること。また,司法修習の実態は訴状や判決文の原案作成,被疑者の取調べ,接見など労働に近く,全国各地への任地配属に伴う経済的負担(例えば,転居費用など)も大きいこと。

4 修習資金貸与金の返還開始時期

(1) 平成30年7月25日,新65期司法修習生であった人の修習資金貸与金の返還が開始し,令和3年7月25日,68期司法修習生であった人の修習資金の返還が開始しました。
(2) 令和 4年7月25日,69期司法修習生であった人の修習資金の返還が開始し,令和5年7月25日,70期司法修習生であった人の修習資金の返還が開始します。
5 関連記事
・ 平成23年11月採用の新65期からの,修習資金貸与制の導入
・ 66期ないし70期司法修習開始時点における,修習資金の貸与申請状況
・ 修習資金貸与金の返還状況



司法修習生に対する修習資金及び修習専念資金の貸与・返済状況等に関するデータの提供について(日弁連事務総長に対する,令和2年11月16日付の最高裁総務局長回答)の別紙です。

第6 67期ないし70期の司法修習生に対する経済的支援,及び68期司法修習で開始した導入修習
1 平成25年11月開始の,67期ないし70期の司法修習生に対する経済的支援
(1) 法務省の法曹養成制度検討会議HPに載ってある「取りまとめ」(平成25年6月26日付)11頁には以下の記載がありました。
    司法修習生に対する経済的支援の在り方については,貸与制を前提とした上で,司法修習の位置付けを踏まえつつ,より良い法曹養成という観点から,経済的な事情によって法曹への道を断念する事態を招くことがないようにするため,措置を講じる必要がある。具体的には,可能な限り第67期司法修習生(本年11月修習開始)から,次の措置を実施すべきである。
1 分野別実務修習の開始に当たり現居住地から実務修習地への転居を要する者本人について,旅費法に準じて移転料を支給する(実務修習地に関する希望の有無を問わない。)。
2 集合修習期間中,司法研修所への入寮を希望する者のうち,通所圏内に住居を有しない者については,入寮できるようにする。
3 司法修習生の兼業の許可について,法の定める修習専念義務を前提に,その趣旨や司法修習の現状を踏まえ,司法修習生の中立公正性や品位を損なわないなど司法修習に支障を生じない範囲において従来の運用を緩和する。具体的には,司法修習生が休日等を用いて行う法科大学院における学生指導をはじめとする教育活動により収入を得ることを認めることとする。
(2)ア 平成26年11月20日開催の第13回法曹養成制度改革顧問会議の資料6-1「司法修習の充実等に向けた検討の状況について」にあるとおり,67期ないし70期の司法修習生に対しては,①実務修習地への移転料(転居費用)の支給,②集合修習期間中の入寮の確保(入寮を希望する者のうち通所圏内に住居を有しない者の全員)及び③兼業許可の運用緩和(法科大学院における学生指導等の教育活動など)といった経済的支援がなされました。
イ 71期以降の司法修習生に対する移転給付金と異なり,①導入修習のための司法研修所への引越,②集合修習のための司法研修所への引越及び③選択型実務修習のための実務修習地への引越については,旅費は支給されるものの,移転料は支給されませんでした( 平成25年12月17日開催の第5回法曹養成制度改革顧問会議の資料3-2「司法修習生の修習資金等の状況のあらまし」参照)。
(3) 司法修習生に対する移転料は,旅費法別表第一・2項の「三級以下の職務にある者」のうち,「赴任の際扶養親族を移転しない場合」(旅費法23条1項2号)に該当するものとしての金額が支給されました。
2 平成26年11月採用の68期司法修習で開始した導入修習
(1) 法務省の法曹養成制度検討会議HPに載ってある「取りまとめ」(平成25年6月26日付)21頁には以下の記載がありました。
◯ 最高裁判所においては,司法修習生に対する導入的教育や選択型実務修習を含め司法修習内容の更なる充実に向けた検討を行うことが求められる。また,第4で述べる新たな検討体制の下で,質の高い法曹を育成できるよう,法科大学院教育との連携,司法修習の実情,上記の最高裁判所における検討状況等を踏まえつつ,司法修習生に対する導入的教育や選択型実務修習の在り方を含め司法修習の更なる充実に向けて,法曹養成課程全体の中での司法修習の在り方について検討を行い,2年以内に結論を得るべきである。
(2)ア 導入修習は,平成26年11月採用の68期司法修習生に対するものから開始しました。
イ 最高裁判所は,司法研修所近隣の税務大学校から,導入修習期間中の寮の借用を承諾してもらうことで,入寮できる司法修習生の人数を増やしました。
(3) 「導入修習の実施に関する司法研修所事務局長の説明」も参照してください。

第7 修習給付金制度を創設した,平成29年の裁判所法改正
1 修習給付金制度の発表開始前の経緯

(1)ア 内閣官房の法曹養成制度改革顧問会議HPに載ってある「法曹養成制度の更なる推進について」(平成27年6月30日法曹養成制度改革推進会議決定)には以下の記載がありました。
    法務省は、最高裁判所等との連携・協力の下、司法修習の実態、司法修習終了後相当期間を経た法曹の収入等の経済状況、司法制度全体に対する合理的な財政負担の在り方等を踏まえ、司法修習生に対する経済的支援の在り方を検討するものとする。
イ 「司法修習生に対する給付型の経済的支援を求める会長声明」(平成28年1月20日付の日弁連の会長声明)には,「司法修習生に対する給付型の経済的支援(修習手当の創設)が早急に実施されるべきである。」という表現がありました。
(2) 経済財政運営と改革の基本方針2016~600兆円経済への道筋~(平成28年6月2日閣議決定。略称は「骨太の方針2016」です。)には「司法修習生に対する経済的支援を含む法曹人材確保の充実・強化」という文言が含まれていました。
(3) 「未来への投資を実現する経済対策」(平成28年8月2日閣議決定)22頁(PDF28頁)に,「(2)若者への支援拡充、女性活躍の推進(中略)・法科大学院に要する経済的・時間的負担の縮減や司法修習生に対する経済的支援を含む法曹人材確保の充実・強化等の推進(法務省、最高裁判所、文部科学省)」と記載されました。
2 平成28年12月の,修習給付金制度創設のための裁判所法改正予定の表明
(1) 71期司法修習生に対応する平成29年度司法試験の願書受付の終了日(平成28年12月8日)後に発表された,法務省HPの「司法修習生に対する経済的支援について」(平成28年12月19日付)には以下の記載があります。
    「経済財政運営と改革の基本方針2016」(平成28年6月2日閣議決定)においては,政府として「司法修習生に対する経済的支援を含む法曹人材確保の充実・強化(中略)を推進する」こととされ,これまで法務省,最高裁判所及び日本弁護士連合会においてその対応を検討してきましたが,今般,三者間において,(1)平成29年度以降に採用予定の司法修習生に対する新たな経済的支援策となる給付制度を新設すること,(2)法務省が,当該支援策を実施する上で必要となる裁判所法の改正に向けた作業を進め,次期通常国会における同改正法案の早期成立に向けて努力すること,(3)最高裁判所及び日本弁護士連合会は,新制度の円滑な実施に協力すること,(4)新たな制度の導入後は同制度について継続的かつ安定的に運用していくことをそれぞれ確認しました。新たな制度の導入に当たっては,今後,平成29年度予算の閣議決定や裁判所法改正の手続を経ることとなります。
(2) 令和4年4月就任の日弁連会長となる小林元治弁護士(東京・33期)は,平成28年度日弁連副会長として法曹養成を主担当としていました(「日弁連の歴代副会長の担当会務」参照)。

3 平成29年の裁判所法改正の内容
(1) 裁判所法の一部を改正する法律(平成29年4月26日法律第23号)による改正後の裁判所法67条の2に基づき,71期以降の司法修習生に対して,修習給付金として,基本給付金(月額13万5000円),住居給付金(月額3万5000円)及び移転給付金(移転距離に応じて4万6500円から14万1000円までの金額)が支給されるようになりました(裁判所HPの「司法修習生の修習給付金について」,及び司法修習生の修習給付金の給付に関する規則 (平成29年8月4日最高裁判所規則第3号)参照)。
    また,修習給付金に加えて,修習専念資金(従前の修習資金に相当するもの)が貸与されるようになりました。
(2) 修習専念資金の額は原則として月額10万円ですが,司法修習生が扶養親族を有し,貸与額の変更を希望する場合,月額12万5000円となります(裁判所HPの「司法修習生に対する修習専念資金の貸与制の概要」,並びに司法修習生の修習専念資金の貸与等に関する規則(平成21年10月30日最高裁判所規則第10号)及び修習専念資金貸与要綱)。
    ただし,配偶者又は子に収入がある場合でも,扶養加算は認められるみたいです(裁判所HPの「修習専念資金貸与FAQ ~これから貸与を受ける方へ~」参照)。
(3) 裁判所HPに「司法修習生の修習給付金について」及び「司法修習生の修習専念資金の貸与等について」が載っています。
4 修習給付金制度に関する国会答弁
(1) 修習給付金制度は,貸与制度と併存する新たな給付金制度であること
・ 40期の小山太士法務省大臣官房司法法制部長は,平成29年4月18日の参議院法務委員会において以下の答弁をしています。
    給費制下の司法修習生につきましては、平成十六年改正前の裁判所法第六十七条第二項におきまして「国庫から一定額の給与を受ける」とされておりまして、法律上、給与としての支給がされておりました。他方、本法案は、これまで御説明しておりますけれども、平成二十九年度以降に採用予定の司法修習生に対し修習給付金を支給する制度を創設いたしまして、貸与制につきましては、貸与額を見直した上でこれを併存させること等を内容とするものでございます。修習給付金は、給与として支給されるものではないわけでございます。
    それで、修習生に対して支給される金額につきましても、給費制下におきましては、最終的には月額二十万四千二百円の給与に加えまして、給与として付随するものでございまして、通勤手当、期末手当といいました各種諸手当が支給されておりました。これに対しまして本法案で創設される修習給付金は、司法修習生、これ全員に一律に支給されます月額十三万五千円の基本給付金のほか、住居給付金及び移転給付金から構成されるものでございまして、給与であるのに伴うような各種手当、諸手当は支給されないわけでございます。
    ということでございまして、今回の修習給付金制度は、かつての給費制に復活するものではなく、貸与制度と併存する新たな給付金制度を創設するものでございます。
(2) 修習給付金の金額決定
・ 41期の堀田眞哉最高裁判所人事局長は,平成29年3月22日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています(ナンバリング及び改行を追加しています。)。
① 修習給付金の金額の点の御質問がございました。
    この具体的な金額につきましては最終的に最高裁判所規則において定めることになりますが、基本給付金として全ての修習生に対して一律十三万五千円、そのほか、住宅を借り受け、家賃を支払っている場合には住居給付金、あるいは移転に必要な移転給付金といったものを支給するということを予定しているところでございます。
    これらの修習給付金の額は、制度設計の過程の中で、法曹人材の確保、充実強化の推進等を図るという制度の導入理由のほか、修習中に要する生活費や学資金等の司法修習生の生活実態その他の諸般の事情を総合考慮するなどして決定されたというふうに承知しているところでございます。
② 最高裁といたしましては、この新たな給付金制度の円滑な実施及び継続的かつ安定的な運用に努めてまいりたいというふうに考えておりますが、今後、制度のいろいろな問題点等は運用の中で出てくるかもしれません。
そのようなところはまた法務省等とも御相談申し上げて、運用については万全を図っていきたいというふうに考えているところでございます。

(3) 修習給付金の税務上の取扱い及び社会保険の関係
ア 40期の小山太士法務省大臣官房司法法制部長は,平成29年3月21日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています(ナンバリングを追加しています。)。
① まず、税務上の取り扱いについての御質問がございました。
    これは、当時、給費制下におきましては、裁判所法に基づきまして司法修習生に対して給与が支給されておりました。給与でございますので、これは給与所得として課税されていたものと承知しております。
    これに対しまして、修習給付金制度のもとでは、先ほど立法の理由についても御説明しましたが、修習給付金は給与として支給されるものではないわけでございまして、そういうことから、給与所得に該当せず、雑所得として区分されるものと認識してございます。
② 次に、社会保険の関係でございます。
    社会保険につきまして、旧給費制下におきましては、裁判所法に基づきまして、今申し上げましたとおり司法修習生に対して給与が支給されておりましたので、司法修習生は裁判所共済組合への加入が認められておりました。
    これに対しまして、修習給付金制度のもとでは、司法修習生は国家公務員ではございませんし、この修習給付金も給与として支給されるものではございませんので、現状、貸与制でございますが、この貸与制下の司法修習生と同様に、裁判所共済組合の組合員たる職員には該当せず、国民健康保険の被保険者に該当することになるものと認識しております。
    また、司法修習生は、修習期間中、その修習に専念することとされておりまして、修習給付金が労務の提供に対して支払われるものでなく、修習期間中の生活を維持するために必要な費用として定められる額を支給するものであることを踏まえますと、年金の関係でございますが、厚生年金保険の被保険者には該当せず、国民年金の第一号被保険者に該当することになるものと認識しております。
イ 修習給付金のうち基本給付金及び住居給付金について,必要経費として控除することができる費用が存在しないという趣旨の国会答弁はない(国会会議録検索システムにおいて「修習給付金 必要経費」で検索すれば分かります。)のであって,最高裁判所が文書を作成するほどの複雑な内容の検討をすることもないまま,修習給付金のうち基本給付金及び住居給付金について必要経費として控除することができる費用は存在しないと判断しました平成30年度(最情)答申第77号(平成31年3月15日付)参照)。
ウ 国税不服審判所令和3年3月24日裁決は,司法修習生の基本給付金及び修習専念資金の利息相当額は必要経費のない雑所得であると判断しました。
5 貸与制導入時からの状況の変化が考慮されているこ
・ 「修習給付金(仮称)について」「には「貸与制導入時からの状況の変化」として以下の記載があります。
    平成16年裁判所法改正時の貸与制導入時には,その立法理由として,司法制度改革推進計画(平成14年3月19日閣議決定)において, 「平成22年ころには司法試験の合格者数を3,000人程度とすることを目指す」 とされたことを前提に,①新たな法曹養成制度の整備に当たり,司法修習生の増加に実効的に対応できる制度とする必要があること,②新たな法曹養成制度の整備や日本司法支援センター(法テラス)の創設,裁判員制度の導入等,新たな財政負担を伴う司法制度改革の諸施策を進める上で,限りある財政資金をより効率的に活用し,司法制度全体に関して国民の理解が得られる合理的な国民負担(財政負担)を図る必要があること,③公務員ではなく公務にも従事しない者に国が給与を支給するのは現行法上異例の制度であること等を考慮すれば,給費制の維持について国民の理解を得るのは困難であることが挙げられていた。
    しかしながら,①の点については,司法試験の年間合格者数3,000人目標は現実性を欠くものとして「法曹養成制度改革の推進について』 (平成25年7月16日法曹養成制度関係閣僚会議決定)において事実上撤回されており平成27年度の司法修習生数は1,787人と,給費制下の平成22年度(2,124人)よりも少なくなっている。
    また,②の点についても,司法制度改革関連予算については,貸与制創設当初には想定されていなかった上記3,000人目標の撤回や法科大学院の統廃合等(平成17年度のピーク時には74校あったが,平成28年5月現在, 32校が学生の募集を停止しており,学生の募集をしているのは42校のみ)を背景に平成22年度(567億円)をピークに減少傾向にあり,平成28年度予算では約450億円程度にまで減少している。
    このように,貸与制創設当初は想定されていなかった様々な事情を背景として,現時点では,貸与制導入時から大きな事情の変化が認められる。
    なお,③の点についても,導入予定の制度は,貸与制を前提とするものであり,給与を支給する給費制を復活させるものではなく,制度の連続性・整合性は維持されており,必ずしも妥当しない。
6 掲載資料
(1) 平成29年6月26日付の内閣法制局長官の行政文書開示決定通知書によって開示された資料として,平成29年の裁判所法改正法の法律案審議録(内閣法制局保有分)を掲載しています。
(2) 平成29年7月14日付の法務大臣の行政文書開示決定通知書によって開示された資料として,平成29年の裁判所法改正法の法律案審議録(法務省保有分)を掲載しています(例えば,裁判所法の一部を改正する法律案【説明資料】(平成29年1月の法務省大臣官房司法法制部の文書)が含まれています。)。
(3) 平成29年11月16日付の司法行政文書開示通知書によって開示された資料を以下のとおり掲載しています。
① 裁判所法の一部を改正する法律案関係資料(平成29年・第193回国会提出)
→ 作成名義人は法務省になっています。
② 想定問答
→ 裁判所は,国会に対する法案提出権を有していないため,国会における法案審議等において,想定問答等を裁判所が作成することは想定されていません(平成28年度(最情)答申第28号(平成28年10月11日付))から,法務省が作成したものを最高裁判所が取得したのかもしれません。



法務省作成の,令和元年6月18日の参議院文教科学委員会の国会答弁資料からの抜粋


法務省作成の,平成29年4月18日の参議院法務委員会の国会答弁資料からの抜粋です。

71期司法修習生向けの修習給付金案内
からの抜粋です。


第8 谷間世代となった新65期ないし70期司法修習生に対する対応
1 谷間世代の存在
    現行65期までの司法修習生については,その修習期間中,国庫から一定額の給与を支給されていましたし,71期以降の司法修習生については,その修習期間中,修習給付金を支給されるようになりました。
    しかし,新65期ないし70期の司法修習生については,その修習期間中に上記の給与又は修習給付金のいずれの支給も受けられませんでしたから,谷間世代又は無給修習世代といいます。
2 最高裁判所の対応
(1) 平成29年11月14日付の不開示通知書によれば,司法修習資金貸与制の対象となった新65期ないし70期に対して,どのような救済措置を講ずべきかについて最高裁が検討した際に作成した文書は存在しません。
(2) 令和2年12月18日付の最高裁判所事務総長の理由説明書には以下の記載があります。
    本件決議(山中注:安心して修習に専念するための環境整備を更に進め,いわゆる谷間世代に対する施策を早期に実現することに力を尽くす決議(平成30年5月25日の日弁連定期総会の決議))は, 日本弁護士連合会から最高裁判所に対して参考として送付されたものであり,また,その内容も最高裁判所に対して何らかの応答を求めるものではないことから, 同決議に関し,最高裁判所としての検討内容を記載した文書は作成していない。
(3) 最高裁判所としては,谷間世代の救済など一切検討していないと思います。
3 法務省の対応
(1) 42期の金子修法務省大臣官房司法法制部長は,令和2年4月2日の参議院法務委員会において以下の答弁をしています(質問者は67期の安江伸夫参議院議員(公明党)でした。)。
    従前の貸与制下で司法修習を終えたいわゆる谷間世代の司法修習生に対する救済措置につきましては、既に修習を終えている者に対して国の財政負担を伴う事後的な救済措置を実施することにつき、国民的理解を得ることは困難ではないかという問題があるように思われます。また、仮に何らかの救済措置を実施するとしても、従前の貸与制下において貸与を受けていなかった者等の取扱いをどうするかといった制度設計上の困難な問題もあるように思います。
    他方、従前の貸与制下の司法修習生が経済的な事情により法曹としての活動に支障を来すことがないようにするための措置として、貸与金の返還期限の猶予も制度上認められているところでございます。すなわち、災害、傷病その他やむを得ない事由により返還が困難となった場合、返還が経済的に困難である事由として最高裁判所の定める事由がある場合には、貸与を受けた者は最高裁判所に対して個別に貸与金の返還期限の猶予を申請することが可能となっており、このような個別の申請に対しては最高裁判所において適切に判断されるものと承知しております。
    以上のとおり、従前の貸与制の下で司法修習を終えた司法修習生に対して立法措置による抜本的な救済策を講ずることは困難であり、救済策を講じることは考えていないというところでございます。
(2) 法務省は一貫して,谷間世代に対して救済策を講じることは考えていないという趣旨の答弁をしています。
4 日弁連の対応
(1) 日弁連は,谷間世代の経済的負担や不平等感を軽減し,日弁連が統一性のある組織を形成していることを確認等することを目的として,谷間世代のうち一定の要件を満たす会員に対し,一律20万円を給付する制度を平成31年4月1日から実施しています(2019年5月1日付の日弁連新聞第544号参照)。
(2) 日弁連による一律20万円の給付金は一時所得となっています(国税庁HPの「司法修習生の修習期間中に給与等の支給を受けられなかった者に対して支払われる給付金の課税関係について」)。
5 名古屋高裁令和元年5月30日判決の付言
    司法修習生の給費制廃止違憲国家賠償等請求控訴事件に関する名古屋高裁令和元年5月30日判決(裁判長は38期の戸田久裁判官)の付言には以下の記載があります。
    当裁判所としても,従前の司法修習制度の下で給費制が果たした役割の重要性及び司法修習生に対する経済的支援の必要性については,決して軽視されてはならないものであって,控訴人らを含めた新65期司法修習生及び66期から70期までの司法修習生(いわゆる「谷間世代」)の多くが,貸与制の下で経済的に厳しい立場で司法修習を行い,貸与金の返済も余儀なくされている(なお,例えば,N本人の供述によれば,貸与の申込みをしなかった者が必ずしも経済的に恵まれていたわけではなかったことが認められる。)などの実情にあり,他の世代の司法修習生に比し,不公平感を抱くのは当然のことであると思料する。法解釈としては,給費制及び給費を受ける権利が憲法上保障されているということはできないとしても,例えば谷間世代の者に対しても一律に何らかの給付をするなどの事後的救済措置を行うことは,立法政策として十分考慮に値するのではないかと感じられるが,そのためには,相当の財政的負担が必要となり,これに対する国民的理解も得なければならないところであるから,その判断は立法府に委ねざるを得ない。


法務省作成の,平成29年3月21日の衆議院法務委員会の国会答弁資料からの抜粋です。

第9 法務省としては,従前の給費制に戻すことは考えていないこと
    令和元年6月18日の参議院文教科学委員会では現実の質疑応答はなかったものの,同委員会のために法務省が用意した以下の国会答弁資料によれば,法務省としては,修習給付金制度を継続的かつ安定的に運用していくことが重要と考えており,従前の給費制に戻すことは考えていないとのことです。


第10 令和元年制定の大学等修学支援法に関する内閣法制局審査資料等
1 職業訓練の実施等による特定求職者の就職の支援に関する法律(平成23年5月20日法律第47号)に関する資料
・ 法律の略称は求職者支援法です。
・ 内閣法制局の審査資料(平成22年9月から平成23年1月):1/42/43/44/4
→ 最終段階の資料として,職業訓練の実施等による特定求職者の就職の支援に関する法律案 御説明資料(平成23年1月の厚生労働省の内閣法制局審査資料)がありますところ,「租税その他の公課は、職業訓練受講給付金として支給を受けた金銭を標準として課することができない。」と定める求職者支援法10条については,「職業訓練受講給付金は、求職者が訓練を受講することを容易にするための給付であるところ、これに公課を課し減額することは、本給付の趣旨に照らし矛盾することとなることから、本給付に公課は課さないこととする。」という記載があるだけです(同資料末尾23頁)。
2 平成28年の所得税法改正に関する資料(学資金関係に限る。)
(1) 平成28年の所得税法改正の一環として「地域における医師確保の取組を更に推進するため、地方公共団体が医学生等に貸与した修学等資金に係る債務免除益について、非課税とする措置を創設する。」ことに関する財務省及び総務省に対する説明資料には以下の資料が含まれています。
① ヒアリング資料(平成27年9月11日付)
・ 学生等修学等資金貸与事業を実施している市町村は154であり(うち,課税対象となる可能性があるのは91市町村),平均貸与金額(大学6年間)は1408万円であり,活用実績として平成24年度は129人,平成25年度は125人,平成26年度は146人などと書いてあります。
② 宿題返し資料(平成27年10月8日付10月16日付及び11月19日付
・ 10月16日付の資料15頁には,「医師の修学等資金も、看護師と同様に課税しない取扱いとすることが適当と考える。」と書いてあります。
・ 11月19日付の資料1頁には,「名古屋国税局の考え方に基づき,私立大学の平均額(山中注:平均的な私立大学の授業料×6年間+入学金+月10万円×6年間で計算した結果としての2385万円)で計算した場合,全ての事業(山中注:医学生等を対象とした,91市町村の修学等資金貸与事業)が,修学する上で必要と認められた範囲内に収まる。」と書いてあります。
(2) 河合塾 医進塾HPの「給費生・特待生・奨学生入試を実施する私立大学一覧2022」によれば,例えば,杏林大学に入学する学生が東京都地域医療医師奨学金(特別貸与奨学金)制度を利用できた場合,「学生納付金(6年間合計3,700万円)、生活費(月額10万円(6年間))の貸与」(合計で4420万円)を受けられるみたいです。

財務省及び総務省に対する説明資料からの抜粋です。
   
 独立行政法人日本学生支援機構法の一部を改正する法律(平成29年3月31日法律第5号)に関する資料
・ 給付型奨学金の非課税措置に関する文部科学省の開示文書(平成28年度及び平成30年度の文書)
・ 内閣法制局の審査資料(平成29年):1月11日1月12日1月13日1月16日
→ 独立行政法人日本学生支援機構法の一部を改正する法律案~内閣法制局長官・次長用御説明資料~(平成29年1月11日現在)が含まれています。
・ 各省協議の資料(法務省)
・ 国会答弁資料(平成29年):3月15日3月17日3月22日3月30日
・ 文部科学省と国税庁の協議資料(平成28年及び平成30年)
 大学等における修学の支援に関する法律(令和元年5月17日法律第8号)に関する資料

・ 法律の略称は大学等修学支援法です。
・ 内閣法制局の審査資料(平成31年):1月17日1月23日1月28日1月29日
→ 大学等における修学の支援に関する法律案 内閣法制局御説明資料(平成31年1月17日現在のもの)が含まれています。
・ 各省協議の資料(内閣府,総務省及び財務省)
・ 国会答弁資料(平成31年):4月3日4月10日4月19日4月23日
・ 施行令に関する内閣法制局に対する説明資料
→ 大学等修学支援法施行令案に関する内閣法制局御説明資料(令和元年5月24日の文書)が含まれていますところ,47頁には「学資支給金の額は,(中略)学業に専念するために必要な学生生活費を賄えるような額を設定することとする。」と書いてあります。
・ 施行令に関する財務省及び国税庁に対する説明資料
→ 概要要綱案文・理由新旧対照表及び参照条文からなります。

第2部 基本給付金は,日本学生支援機構の給付型奨学金と同様に非課税所得としての学資金であるという個人的主張

第1 基本給付金の趣旨目的を考慮することで,基本給付金が学資金に該当するかどうかを判断することが許容されること
1 規定の趣旨目的を考慮することは許容されること
    租税法規に関する最高裁判例は,規定の文理を忠実に解釈したもの(最高裁平成22年3月2日判決及び最高裁平成23年2月18日判決(武富士事件)など),規定の趣旨目的を踏まえて解釈したもの(最高裁成18年6月19日判決(ガイアックス事件),及び最高裁平成24年1月13日判決(養老保険契約保険料控除事件)など)の双方があり,その原則的な立場を明らかにしていません。
    しかし,租税法律主義の趣旨に照らし,文理解釈を基礎とし,規定の文言や当該法令を含む関係法令全体の用語の意味内容を重視しつつ,事案に応じて,その文言の通常の意味内容から乖離しない範囲内で,規定の趣旨目的を考慮することは許容されるといえます。
2 基本給付金が所得税法9条1項15号の学資金に含まれると解したとしても,学資金という文言の通常の意味内容から乖離するとまではいえないこと
(1)ア 「学資」という文言を含む登録商標40例のうち,39例は「第36類」(金融,保険及び不動産の取引)であり,残り1例は「第16類」(紙,紙製品及び事務用品)です。
    これに対して「学費」という文言を含む登録商標5例のうち,2例だけが「第36類」であり,残り3例は「第35類」(広告,事業の管理又は運営,事務処理及び小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供),「第41類」(教育,訓練,娯楽,スポーツ及び文化活動)又は「第42類」(科学技術又は産業に関する調査研究及び設計並びに電子計算機又はソフトウェアの設計及び開発)です。
    つまり,「学資」という文言を含む登録商標と「学費」という文言を含む登録商標とでは,商標法施行令2条及び別表が定める「商品及び役務の区分」が全く異なっています。
(2)ア 「学資」というキーワードでグーグル検索した場合における上位10位以内の検索結果はすべて学資保険に関するものであるのに対し,「学費」というキーワードでグーグル検索した場合における上位10位以内の検索結果はすべて教育資金に関するものであって,両者の間に共通する検索結果は全く存在しません。
イ グーグル検索において1頁に表示する件数を50件に増やした上で(ナポリタン寿司のPC日記ブログ「【Google検索】1ページに表示する件数を増やす方法」参照),「”学資”」というキーワードでグーグルの限定検索をした場合における上位50件以内の検索結果の9割以上が学資保険に関するものであり,残りは学資ローン(生活費等にも使えるローン)です。
    これに対して,「”学費”」というキーワードでグーグルの限定検索をした場合における上位50件以内の検索結果の9割以上は入学金,授業料その他の学納金に関するものであって,両者の間に共通する検索結果は全く存在しません。
ウ 「学資」という文言を含む登録商標の指定商品又は指定役務はいわゆる学資保険にほぼ限られています。
エ それゆえ,「学資」と「学費」とでは,現実の使用場面が全く異なるといえます。
(3) 使い道の制限がない学資保険の満期保険金に対しては所得税又は贈与税が課税されることからも分かるとおり,学資保険の場合,非課税所得としての学資金とは全く異なる意味で「学資」という文言を使用しています(マネードクターナビ「学資保険が贈与税の対象に?知っておきたい保険と税金」参照)。
(4) 予算決算及び会計令57条7号は「外国で研究又は調査に従事する者に支給する学資金その他の給与」という文言を使用しています。
    そのため,法令用語としての学資金は,生活費にも使用されることが明らかな給与に含まれる場合があるといえます。
(5) そのため,「学資」という文言の通常の意味内容がいわゆる「学費」(入学金,授業料その他の学納金)に限られていないことは明らかですから,基本給付金(裁判所法67条の2参照)が所得税法9条1項15号の学資金(非課税所得)に含まれると解したとしても,学資金という文言の通常の意味内容から乖離するとまではいえません。
3 小括
   したがって,学資金という文言や関係法令としての大学等修学支援法の「給付型奨学金」という用語の意味内容を重視しつつ,基本給付金の趣旨目的を考慮することで,基本給付金が学資金に該当するかどうかを判断することが許容されるといえます。
   
第2 両者の給付の目的が類似していること
    日本学生支援機構の給付型奨学金(大学等修学支援法4条及び独立行政法人日本学生支援機構法17条の2)の導入目的は,修学に係る経済的負担を軽減することにより我が国における急速な少子化の進展への対処に寄与することであり(大学等修学支援法1条),基本給付金を含む修習給付金の導入目的は,司法修習に係る経済的負担を軽減することにより法曹人材確保の充実・強化を図ることです(「司法修習生に対する経済的支援について」(平成28年12月19日付)参照)。
    そのため,経済的負担の軽減により一定の政策目的を実現するという点で,両者の給付の目的は類似しています。
   
第3 両者の給付の趣旨が類似していること
1 給付型奨学金が賄うことを想定している生活費としての「学生が学業に専念するため、学生生活を送るのに必要な生活費」の内容
(1) 経済財政運営と改革の基本方針2018(平成30年6月15日閣議決定。略称は「骨太の方針2018」です。)11頁に以下の記載があります。
    給付型奨学金については、住民税非課税世帯の子供たちを対象に、学生が学業に専念するため、学生生活を送るのに必要な生活費を賄えるよう措置を講じることとする。対象経費は、他の学生との公平性の観点を踏まえ、社会通念上妥当なものとすることとし、具体的には、日本学生支援機構「平成24年度、26年度、28年度学生生活調査」の経費区分に従い、修学費、課外活動費、通学費、食費(自宅外生に限って自宅生分を超える額を措置。)、住居・光熱費(自宅外生に限る。)、保健衛生費、通信費を含むその他日常費、授業料以外の学校納付金(私立学校生に限る。)を計上、娯楽・嗜好費を除く。あわせて、大学、短期大学、高等専門学校、専門学校(以下「大学等」という。)の受験料を計上する。
(2) 以上のような骨太の方針2018の記載からすれば,給付型奨学金が賄うことを想定している生活費としての「学生が学業に専念するため、学生生活を送るのに必要な生活費」の内容は,①修学費、②課外活動費、③通学費、④食費(自宅外生に限って自宅生分を超える額を措置。)、⑤住居・光熱費(自宅外生に限る。)、⑥保健衛生費、⑦通信費を含むその他日常費、⑧授業料以外の学校納付金(私立学校生に限る。)及び⑨大学等の受験料であることとなります。
2 基本給付金が賄うことを想定している生活費の内容は,「学生が学業に専念するため、学生生活を送るのに必要な生活費」と類似していること
(1) 基本給付金が賄うことを想定している生活費は生活実費及び学資金(狭義のもの)であります(「修習給付金及び修習専念資金の金額について」参照)。
(2) 生活実費の中身は,(a)食費,(b)交通費,(c)情報通信費,(d)水道光熱費,(e)就職活動費及び(f)諸雑費(医療費,衣服費等)でありますところ,(a)は④に類似し,(b)は③に類似し,(c)は⑦に対応し,(d)は⑤に含まれ,(e)は⑨に準じていますし,(f)は⑥及び⑦に類似しています。
    また,学資金(狭義のもの)の中身は,①修学費(教科書・参考図書等のために支出した経費)に類似しています。
ウ そのため,基本給付金が賄うことを想定している生活費の内容は,「学生が学業に専念するため、学生生活を送るのに必要な生活費」と類似しているといえます。
3 小括
    したがって,基本給付金が賄うことを想定している生活費の内容は,給付型奨学金が賄うことを想定している生活費の内容と類似しているのであって,両者の給付の趣旨は類似しているといえます。


第4 基本給付金の金額は,非課税所得としての生活費の金額規模として社会通念上妥当なものであること
1 基本給付金の金額の設定根拠は給付型奨学金と同じであること
    月額13万5000円という基本給付金の額は,平成26年11月採用の68期司法修習生の修習期間中の生活実費及び学資金が月額おおむね13.5万円程度であったという実態調査(平成27年7月15日から同年9月4日にかけて日弁連が実施したもの)を元に,司法修習生の支出の水準を総合的に勘案し,司法修習生が司法修習に専念するために必要な生活費を賄えるように設定されたものです(「裁判所法の一部を改正する法律案【説明資料】」(平成29年1月付の,法務省大臣官房司法法制部の文書)末尾1頁ないし4頁参照)。
    ところで,文部科学省は,内閣法制局に対し,同月下旬の説明資料において,学資支給金(給付型奨学金と同じ意味です。)の額は,日本学生支援機構の学生生活調査等をもとに学生の支出の水準を総合的に勘案し,学業に専念するために必要な学生生活費を賄えるような額に設定すると説明しています(
令和元年6月28日政令第50号により独立行政法人日本学生支援機構法施行令を改正した際の,内閣法制局に対する説明資料末尾47頁)。
    そのため,基本給付金の金額の設定根拠は給付型奨学金と同じであるといえます。
2 学生との公平性の観点からは特に問題がないこと
(1) 医学生の場合,学部生としての義務を負っているにすぎないものの,非課税所得としての生活費が月額10万円まで認められています(給付型奨学金を非課税とすることについて(平成30年11月16日付の文部科学省の文書)参照)。
    これに対して司法修習生の場合,高い識見と円満な常識を養い、法律に関する理論と実務を身につけ、裁判官、検察官又は弁護士にふさわしい品位と能力を備えるように努める義務を負っています(司法修習生に関する規則4条)し,国家公務員に準じた身分にあるものとして取り扱われる結果(裁判所HPの「司法修習生」参照),原則として兼業・兼職が禁止され(司法修習生に関する規則2条),修習専念義務(裁判所法67条2項)や守秘義務(司法修習生に関する規則3条)などを負うこととされています。
    そのため,両者の果たすべき義務の水準は大きく異なりますから,司法修習生の非課税所得としての生活費が医学生のそれよりもある程度高額になったとしても,社会通念上妥当であるといえます。
(2) 科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業においてフェローシップ受給対象学生となった博士後期課程学生の場合,生活費相当額として年間180万円(月額15万円)以上の研究専念支援金を支給されます(学術の研究のためである点で学資金ではないことを理由に雑所得となることにつき,国税庁HPの「外国の研究機関等に派遣される日本人研究員に対して支給される奨学金」及び科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業 公募に係るQ&A(令和3年12月の文部科学省科学技術・学術政策局の文書)末尾2頁参照)ところ,基本給付金はこれよりも金額規模が小さいです。
(3) したがって,医学生等よりも厳しい義務を負う司法修習生に対し,月額13万5000円の基本給付金を支給することは,学生との公平性の観点からは特に問題がないといえます。
3 他の社会人との公平性の観点からは全く問題がないこと
(1) 司法修習生は,社会人としてのルール,マナーを守ることは当然であるものの,将来法曹として責任のある立場に立つ者として,国民からは,単にルール,マナーを守るにとどまらず,率先して規範を守り,その範を示すことを期待されています。
    また,国民は,司法修習生について優れた社会人たるべき者として高い期待を持っているだけに,良識を欠く言動やマナーに対しては厳しい批判の目を向けており,近年はその傾向が顕著であります(修習生活へのオリエンテーション(平成29年11月)3頁)。
    つまり,司法修習生は優れた社会人であること等が求められています。
(2) 司法研修所がある埼玉県の,平成29年10月1日改定の最低賃金である時給871円(平成29年9月1日付の埼玉労働局のプレスリリース参照)で1週間当たり40時間(法定労働時間であることにつき労働基準法32条1項)働いた場合,871円×40時間×30日/7日=14万9314円となりますから,月額13万5000円の基本給付金は埼玉県の最低賃金を下回る金額です。
    それにもかかわらず,司法修習生は,修習期間中,その全力を修習のために用いてこれに専念すべき義務があるのであって,家庭教師又は司法試験の受験指導を行うことなどにより収入を得ることは,司法研修所長の許可がない限り禁止されています(修習生活へのオリエンテーション(平成29年11月)6頁参照)。
(3) 労働時間とは,使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい,使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たりますところ,例えば,参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や,使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間は労働時間として取り扱われます(平成29年1月20日付の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」)。
    そして,司法修習は,司法修習生が自らの意思で参加しているとはいえ,法曹になるためには必須の臨床教育課程として参加する必要があるものです(裁判所法43条,検察庁法18条1項1号及び弁護士法4条参照)から,社会人としての司法修習生が司法修習を受けている時間は労働時間に準じるといえます。
(4)    したがって,社会人としての司法修習生に対し,月額13万5000円の基本給付金を支給することは,他の社会人との公平性の観点からは全く問題がないといえます。
4 司法修習生の経済的負担は一段と増えたこと
    新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い,73期集合修習,74期導入修習及び集合修習,並びに75期導入修習は,Microsoft Teamsを利用したオンライン形式で実施されたところ,パソコン等の情報通信機器及びインターネット環境は司法修習生が各自で準備する必要がありました(第74期司法修習の導入修習の実施方法について(令和3年1月14日付の司法研修所事務局の事務連絡)参照)から,司法修習生の経済的負担は一段と増えました。
    それにもかかわらず,73期以降の司法修習生について基本給付金の金額が増えることはありませんでした。
5 小括
    したがって,基本給付金の金額は,非課税所得としての生活費の金額規模として社会通念上妥当なものであるといえます。


第5 基本給付金の支給対象となる司法修習生について学費負担がないことは,基本給付金の学資金該当性を否定する事情とはならないこと
1 学費負担が存在することを不可欠の理由として給付型奨学金が学資金に該当するとされているわけではないこと
(1) 文部科学省の国税庁に対する説明内容

ア  給付型奨学金を非課税とすることについて(平成30年11月16日付の文部科学省の文書)では,①「修学費、課外活動費、通学費、食費(自宅外生に限って自宅生を超える額を措置。)、住居・光熱費(自宅外生に限る。)、保健衛生費、通信費を含むその他日常費、授業料以外の学校納付金(私立学校生に限る。)及び受験料」を賄うことを予定している給付型奨学金は修学をするうえで追加的に必要となるものであり,所得税法上の「学資金」に該当するものであるとか,②検討中の給付型奨学金は最大でも月額10万円は超えない見込みである点で平成24年3月9日付の名古屋国税局の文書回答事例において決着済みの議論であるという趣旨の説明をすることで,給付型奨学金は学資金に当たるという国税庁回答が得られています。
    そのため,文部科学省は,国税庁に対し,骨太の方針2018を具体化するものである給付型奨学金は,「学業に専念するために必要な学生生活費を賄うための費用」ではなく,「修学のために追加的に必要となる費用」を賄うものであるという趣旨の説明をしていたこととなります。
イ 文部科学省としては,拡充後の給付型奨学金は「修学のために追加的に必要となる費用」という趣旨の説明をすることで,学資金であるという回答を国税庁から得ようとしたのかもしれません。
    そして,仮にこのような説明を前提とした場合,給付型奨学金は,学校等の教育機関において学術等の教育・指導を受けるために必要な費用(学費)に充てるための資金として他者から給付される金品については非課税とし,その全額を学費に充てることを可能にすることにより,学費に不足を来すことを防ぐことを目的としたものであって,支給対象者について学費負担が存在することを不可欠の理由として給付型奨学金が学資金に該当するともいえます。

給付型奨学金の非課税措置に関する文部科学省の開示文書(平成28年度及び平成30年度の文書)の一部です。
   
(2) 文部科学省の内閣法制局に対する説明内容
ア 大学等における修学の支援に関する法律案 内閣法制局御説明資料(平成31年1月17日現在のもの)末尾1頁(PDF2頁)には「大学等において修学を行うためには、まずは、大学等の授業料等について支援を行うことが必須である。さらに、進学後の学生生活を送るのに必要な費用を賄えるよう学資を支給する必要がある。」と書いてありますし,末尾7頁(PDF8頁)には「本法律案は,真に支援が必要な低所得者世帯の学生等に対して,進学後の学生生活を送るのに必要な生活費を賄うための学資支給及び授業料等減免を行うものである」と書いてありますし,末尾12頁(PDF13頁)では「学資支給は進学後の学生生活を送るのに必要な費用を賄うものである」と書いてあります。
    そのため,文部科学省は,内閣法制局に対し,給付型奨学金は進学後の学生生活を送るのに必要な生活費を賄うために支給するものと説明していたこととなります。
イ 文部科学省は,内閣法制局に対し,平成29年1月当時,意欲と能力があるにもかかわらず,経済的事情により進学を断念せざるを得ない者の高等教育への進学を後押しするために創設する給付型奨学金は学資金として非課税所得であるという説明をしていました(独立行政法人日本学生支援機構法の一部を改正する法律案~内閣法制局長官・次長用御説明資料~(平成29年1月11日現在)10頁)。
    そのため,文部科学省としては,経済的事情により進学を断念せざるを得ない者の高等教育への進学を後押しするものであるという趣旨で「生活費を賄う」という文言は使用しつつも,「学生が学業に専念するため」という文言の使用は省略することで,
拡充後の給付型奨学金は従前と同様の理由により学資金であるという説明をしたのかもしれません。

独立行政法人日本学生支援機構法の一部を改正する法律案~内閣法制局長官・次長用御説明資料~(平成29年1月11日現在)10頁(学資給付金とあるのは,給付型奨学金のことです。)

(3) 文部科学省の国会に対する説明内容
ア 53期の柴山昌彦文部科学大臣は,大学等修学支援法案提出前となる平成30年11月13日の参議院文教科学委員会において以下の答弁をしています。
    高等教育については、二〇二〇年度から、大学、短期大学、高等専門学校及び専門学校の全ての意欲ある住民税非課税世帯の学生等について、授業料減免措置を講ずるとともに、支援を受けた学生等が学業に専念できるよう、学生生活を送るのに必要な生活費を賄うため給付型奨学金の支給額を大幅に増やします。また、住民税非課税世帯に準ずる世帯の子供たちについても必要な支援を行います。
イ 53期の柴山昌彦文部科学大臣は,大学等修学支援法案提出後となる平成31年3月22日の衆議院文部科学委員会において以下の答弁をしています。
    確かに、真に支援が必要な低所得者世帯の学生に対してということではありますけれども、確実に授業料等が減免されるよう、大学等を通じた支援を行うこととしております。
    また、学生生活の費用をカバーするのに十分な給付型奨学金の支給とセットで支援を行うということによって、安心して学業に専念し修学できるようにしているものであります。
    それ以外の方々に対しては、貸与型の奨学金の利活用を順次利用しやすくする、また返済の負担も軽減をさせていただいているところでありまして、現場の声にこれからもしっかりと耳を傾けてまいりたいと思います。
ウ 萩生田光一文部科学大臣は,大学等修学支援法成立後となる令和元年10月30日の衆議院文部科学委員会において以下の答弁をしています。
    給付型奨学金の額は、独立行政法人日本学生支援機構の学生生活調査などをもとに学生の支出の水準を総合的に勘案し、学業に専念するために必要な学生生活費を賄えるように設定しているものです。この給付型奨学金は、定額を措置し、使途を限定しないものであり、内訳を示すことにより使途が限定されるような誤解を与えることから、費目ごとの計上額ではなく、実際の支給額のみを示しており、内訳は示さないこととしております。
    このことを前提に、あえて受験料について申し上げれば、受験料として四年間で合計十三万七千円を換算しておりまして、また、英語資格検定試験の検定料は一万五千円で計算をしております。
エ 給付型奨学金は「修学のために追加的に必要となる費用」であるという趣旨の文部科学省の国会答弁は存在しません(国会会議録検索システムにおいて「修学のために追加」及び「修学をする」でそれぞれ検索すれば分かります。)。
オ そのため,文部科学省は,国会に対し,給付型奨学金というのは,使途の限定なく,学業に専念するために必要な学生生活費を賄うものであるという趣旨の説明をしていたこととなります。
    そして,このような説明は,「高等教育の無償化の実施に伴う授業料・入学金の減免措置及び給付型奨学金に係る非課税等の所要の措置」(平成30年8月の文部科学省の文書)と完全に合致することからすれば,給付型奨学金に関する文部科学省の本来の説明であると思います。

給付型奨学金の非課税措置に関する文部科学省の開示文書(平成28年度及び平成30年度の文書)の一部です。

令和元年10月30日の衆議院文部科学委員会の国会答弁資料の一部です。

(4) 給付型奨学金の位置づけは「使途の限定のない,学業に専念するために必要な学生生活費を賄うための費用」であるという趣旨の行政府の有権的解釈を国税庁が争うことは許されないこと
ア 文部科学省は,「修学費、課外活動費、通学費、食費(自宅外生に限って自宅生を超える額を措置。)、住居・光熱費(自宅外生に限る。)、保健衛生費、通信費を含むその他日常費、授業料以外の学校納付金(私立学校生に限る。)及び受験料」を賄う給付型奨学金の位置づけとして,①国税庁に対しては,「修学のために追加的に必要となる費用」という趣旨の説明をしていて,②内閣法制局に対しては,「進学後の学生生活を送るのに必要な生活費を賄うもの」という趣旨の説明をしていて,③国会に対しては,「使途の限定のない,学業に専念するために必要な学生生活費を賄うための費用」という趣旨の説明をしていたわけですから,三者に対する説明の内容がなぜか異なります。
    そして,以下の事情からすれば,給付型奨学金の位置づけは「使途の限定のない,学業に専念するために必要な学生生活費を賄うための費用」であるという趣旨の,国会に対して行った説明が行政府の有権的解釈であるといえます。
① 独立行政法人日本学生支援機構法の一部を改正する法律案に対する附帯決議(平成29年3月22日の衆議院文部科学委員会の付帯決議)において「七 給付を廃止し、又は返還をさせる場合については、その判断基準や具体的な実施方法をあらかじめ明確にするなど、学生ができるだけ安心して学業に専念できるよう、慎重な運用を行うこと。」と記載され,独立行政法人日本学生支援機構法の一部を改正する法律案に対する附帯決議(平成29年3月30日の参議院文教科学委員会の付帯決議)において「六、給付を廃止し、又は返還をさせる場合については、その判断基準や具体的な実施方法をあらかじめ明確にするなど、学生が安心して学業に専念できるよう、慎重な運用を行うこと。」と記載されていることからすれば,給付型奨学金は,平成29年度の導入当初から,学生が学業に専念できるようにするための給付であったといえること。
② 閣議決定としての骨太の方針2018において,給付型奨学金に関して「学生が学業に専念するため、学生生活を送るのに必要な生活費を賄えるよう措置を講じることとする」という文言が使用されていたし,参議院議員藤末健三君提出大学などの高等教育無償化に関する質問に対する答弁書(平成30年7月24日付)でもそのことが確認されていたこと。
③ 安倍晋三内閣総理大臣は,平成31年2月12日の衆議院予算委員会において,「来年度からは、真に必要な子供たちに対する高等教育の無償化を行います。と同時に、既に始めていることでありますが、いわば返金不要の奨学金を拡充をしてまいります。それのみならず、授業料を減免して、なおかつ、生活費にも充てることができるような形で、我々、奨学金を出していくということで、そういう学生の皆さんがアルバイトをしなくて学業に専念できるような環境をつくるために、しっかりと取り組んでいるわけでありますし、更にそれを進めていきたい、こう考えております。」と答弁していること。
④ 大学等における修学の支援に関する法律案に対する附帯決議(令和元年5月9日の参議院文教科学委員会の付帯決議)において「六、学生等ができる限り安心して学業に専念できるよう、支援を打ち切る場合や学資支給金を返還させる場合については、その判断基準や具体的な実施方法をあらかじめ明確にするなど、慎重な運用を行うこと。」と定められていたことから,給付型奨学金は,平成31年度の拡充後も,学生が学業に専念できるようにするための給付であったといえること。
⑤ 内閣法制局設置法3条に基づき,内閣法制局は,行政府による行政権の行使について,憲法を始めとする法令の解釈の一貫性や論理的整合性を保つとともに,法律による行政を確保する観点から,内閣等に対し意見を述べるなどしてきた国家機関である(参議院議員小西洋之君提出内閣法制局長官と法の支配に関する質問に対する答弁書(平成26年11月28日付))から,国税庁に対する説明よりも内閣法制局に対する説明を優先すべきであること。
⑥ 憲法63条において,内閣総理大臣その他の国務大臣は,議院で答弁又は説明のため出席を求められたときは出席しなければならないとされており,これは,国会において誠実に答弁する責任を負っていることを前提としていると解される(衆議院議員平野博文君提出閣僚等の答弁・説明義務及び「あたご」事故の調査等に関する質問に対する答弁書(平成20年4月4日付))から,国会においてその内容を当然に知ることまでは予定されていない行政機関内部に対する説明よりも,国会に対する説明を優先すべきであるのは当然であること。
⑦ 給付型奨学金に関して,使途の制限を定めた法令の定めは存在しないこと。
イ 国税庁の通達が法規の解釈を法的に拘束するわけではありません(最高裁平成24年1月13日判決の裁判官須藤正彦の補足意見参照)。
    また,行政府としての法令の解釈につき,最終的には,行政権の帰属主体である内閣がその責任において行うものであると解されます(参議院議員小西洋之君提出内閣の解釈変更と議院内閣制等との関係に関する質問に対する答弁書(平成27年10月6日付)参照)。
    そのため,骨太の方針2018を具体化するものである給付型奨学金の位置づけについて,前述した行政府の有権的解釈を国税庁が争うことは許されないといえます。
(5) 小括
    したがって,給付型奨学金は授業料等減免と一体のものとして実施されている(大学等修学支援法3条及び4条参照)とはいえ,「学業に専念するために必要な学生生活費を賄うための費用」である点で学費負担を当然の前提としているとまではいえませんから,学費負担が存在することを不可欠の理由として給付型奨学金が学資金に該当するとされているわけではないといえます。    
2 学費負担を高等教育の不可欠の条件としない国際水準の達成を目指すべき行動義務が日本国政府にあること
(1) 日本国政府は,社会権規約13条2項(c)が定める国際水準を漸進的に達成するための行動義務を負っていること
    社会権規約
2条1項は「この規約の各締約国は、立法措置その他のすべての適当な方法によりこの規約において認められる権利の完全な実現を漸進的に達成するため、自国における利用可能な手段を最大限に用いることにより、個々に又は国際的な援助及び協力、特に、経済上及び技術上の援助及び協力を通じて、行動をとることを約束する。」と定めています。
    そして,日本国政府は,平成24年9月11日,「高等教育は、すべての適当な方法により、特に、無償教育の漸進的な導入により、能力に応じ、すべての者に対して均等に機会が与えられるものとすること。」と定める社会権規約13条2項(c)等に付していた留保を撤回する旨を国際連合事務総長に通告しました(外務省HPの「経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約(社会権規約)第13条2(b)及び(c)の規定に係る留保の撤回(国連への通告)について」参照)。
    そのため,日本国政府は,同条項が定める国際水準を漸進的に達成するための行動義務を負っていることとなります。
(2) 学費負担を高等教育の不可欠の条件としないことが,社会権規約13条2項(c)に基づいて達成すべき国際水準であること
    諸外国における大学の授業料と奨学金(国立国会図書館の調査と情報869号(2015年7月9日付))によれば,「日本以外の OECD 加盟国には、授業料が有償で高額、かつ給付制奨学金がない国は見られないが、各国における制度の在り方は多様である。」とのことですし(リンク先のPDF1頁)し,OECD諸国のうち,エストニア,オーストリア,ギリシャ,スウェーデン,スロバキア,スロベニア,チェコ,デンマーク,ドイツ,トルコ,ノルウェー,フィンランド及びポーランド(あいうえお順)については,国公立大学等の授業料は無償になっています(リンク先のPDF8頁ないし15頁)。
    また,国立国会図書館調査及び立法考査局が2013年2月に作成した「各国憲法集(5)ギリシャ憲法」に載ってある,ギリシャ憲法16条4項は「全てのギリシャ人は、国立の教育機関のあらゆる段階において無償で教育を受ける権利を有する。国は、優秀な成績を修め、又は援助若しくは特別の保護を必要とする学生に対して、その能力に応じて援助を行うものとする。」とまで規定しています(リンク先のPDF39頁)。
    そのため,学費負担を高等教育の不可欠の条件としないことが,社会権規約13条2項(c)に基づいて達成すべき国際水準であるといえます。
(3) したがって,学費負担を高等教育の不可欠の条件としない国際水準の達成を目指すべき行動義務が日本国政府にあるといえます。


3 司法修習は,社会権規約13条2項(c)がいうところの高等教育に含まれること
(1) 司法修習は,実務修習を中核とする実務に即した高等教育を行う課程であること
    法科大学院は,将来の法曹としての実務に必要な学識及びその応用能力(弁論の能力を含む。)並びに法律に関する実務の基礎的素養を涵養するよう適切に配慮しなければなりませんし(専門職大学院設置基準20条の2第2項),法科大学院の授業科目のうちの法律実務基礎科目は,法曹としての技能及び責任その他の法律実務に関する基礎的な分野の科目です(専門職大学院設置基準20条の3第1項2号)から,法科大学院教育は職業訓練としての要素を有しているといえます。
    また,職業訓練は学校教育との重複を避ける必要がある(職業能力開発促進法3条の2第2項)のに対し,司法修習は法科大学院教育との有機的連携の下に行われるものであって(法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律2条3号),法科大学院教育との重複を避ける必要があるとはされていません。
    さらに,勤労学生控除における勤労学生には「職業能力開発促進法の規定による認定職業訓練を行う職業訓練法人で一定の課程を履修させるもの」の学生が含まれる(国税庁HPの「タックスアンサーNo.1175 勤労学生控除」参照)ことからすれば,司法修習が職業訓練としての要素を強く有するというだけの理由により高等教育から外れることはないといえます。
    そのため,法科大学院教育と司法修習の役割分担について,法科大学院教育は,法理論教育及び実務への導入教育を行うものであるのに対し,司法修習は,法科大学院における教育を前提とし,これと連携を図りながら,実務修習を中核とする実務に即した高等教育を行う課程であるといえます(法務省の法曹養成制度検討会議HPに載ってある「取りまとめ」(平成25年6月26日付)21頁参照)。
(2) 司法修習生の身分は学生に類似するところがあること
    司法修習生に品位を辱める行状,修習の態度の著しい不良その他これらに準ずる事由がある場合,罷免又は修習の停止を受けることとなります(裁判所法68条2項,及び司法修習生に関する規則17条2項)。
    そして,法務省大臣官房司法法制部は,司法修習生の「罷免」は「退学」に対応し,「修習の停止」(司法修習生の身分は保有するが,一定期間修習をさせない処分)は「停学」に対応すると説明している(裁判所法の一部を改正する法律案【説明資料】(平成29年1月の法務省大臣官房司法法制部の文書)末尾10頁及び11頁)ことからしても,司法修習生の身分は学生に類似するところがあるといえます。
(3) そのため,司法修習は,社会権規約13条2項(c)がいうところの高等教育に含まれるといえます。
4 小括
    したがって,司法修習生には学費に充てるための資金を確保する必要性がないこと,つまり,基本給付金の支給対象となる司法修習生について学費負担がないことは,基本給付金の学資金該当性を否定する事情とはならないといえます。
   
第6 基本給付金の支給対象となる司法修習生について所得制限がないことは,基本給付金の学資金該当性を否定する事情とはならないこと
1 受給者が経済的理由により修学に困難がある者に限定されているかどうかは,学資金への該当性を左右する事情ではないこと
(1)ア 平成29年創設時の給付型奨学金に関しては,内閣法制局説明資料において,「学資支給金は、所得税法上、非課税の対象とされている「学資に充てるために給付される金品」(所得税法第9条第1項第15号)に該当する」というだけの理由により非課税所得扱いとする許容性があると説明されています(独立行政法人日本学生支援機構法の一部を改正する法律案~内閣法制局長官・次長用御説明資料~(平成29年1月11日現在)10頁)ところ,所得制限があるから非課税所得扱いとする許容性があるなどとは説明されていません。
イ 大学等における修学の支援に関する法律案 内閣法制局御説明資料(平成31年1月17日現在のもの)では,平成31年改正後の給付型奨学金が学資金として非課税所得扱いであることに関する説明すらありません。
(2) 所得税法9条1項15号前段が学資金を非課税所得としているのは,あくまでも学術奨励という公益目的のためであって,所得税法9条1項15号後段と異なり受給者の経済状態への配慮を目的としたものではありません。
実際,平成30年11月16日付の文部科学省の文書では,給付型奨学金を非課税とすることについて検討した際,支給を受ける学生等の経済状態への言及は一切ありません。
    また,平成24年3月9日付の名古屋国税局の文書回答事例では,「県から奨学金の貸与を受けた医学生が医師免許取得後県内の医療機関に一定期間従事することによりその返還及び利息の支払に係る債務を免除された場合の課税関係」について検討した際,貸与を受ける医学生の経済状態への言及は一切ありません。
(3) そのため,受給者が経済的理由により修学に困難がある者に限定されているかどうかは,学資金への該当性を左右する事情ではないといえます。
2 基本給付金について所得制限がないことに関しては合理的理由があること
    すべての司法修習生は,裁判所法上,修習専念義務を負い,兼業が原則として禁止されており,その経済的事情にかかわらず,生活の基盤を確保して修習専念義務を担保し,修習の実効性を確保すべき点に違いはないことにかんがみ,基本給付金については,すべての司法修習生に支給されることとなりました(想定問答(リンク先の5頁)参照)。
    そして,弁護士法が弁護士資格を,原則として司法修習生の修習を終えた者に限ったのは,弁護士の職務内容が国の裁判制度と不可分の関係にあり,その公職的性格が顕著であることによるものです(最高裁昭和43年11月15日判決)から,司法修習の実効性を確保すべき必要性は極めて大きいといえます。
    そのため,基本給付金について所得制限がないことに関しては合理的理由があるといえます。
3 基本給付金には課税所得となるべき担税力がないこと
    所得税法は,23条ないし35条において,所得をその源泉ないし性質によって10種類に分類し,それぞれについて所得金額の計算方法を定めているところ,これらの計算方法は,個人の収入のうちその者の担税力を増加させる利得に当たる部分を所得とする趣旨に出たものと解されます(最高裁平成24年1月13日判決)から,担税力のないものが課税所得となることはないといえます。
    そして,基本給付金は,68期司法修習生の修習期間中の生活実費及び学資金が月額おおむね13.5万円程度であったという実態調査に基づいて月額13万5000円と定められたのであって,租税公課の支払を考慮した金額にはなっていません(「裁判所法の一部を改正する法律案【説明資料】」(平成29年1月付の,法務省大臣官房司法法制部の文書)末尾1頁ないし4頁参照)。
    また,司法修習生は原則として兼業を禁止されている(司法修習生に関する規則2条)関係で,住居費を除く生活費に充てることができる所得は基本給付金だけです。
    そのため,基本給付金には課税所得となるべき担税力がないといえます。
4 基本給付金は学資金に該当すると解することで,法曹人材確保の充実・強化という修習給付金の制度趣旨を全うする必要性は年々高まっていること
(1) 司法試験の受験者数につき,ピーク時の平成15年度は4万5372人であったにもかかわらず,修習給付金制度が創設された平成29年度は5967人であり,71期司法修習生であった人が確定申告をした後となる令和元年度は4466人であり,令和3年度は3424人です(資格Times「司法試験の受験者数はどれくらい?受験者・合格者の推移や今後の展望を徹底考察!」参照)。
    また,司法試験の出願者数につき,令和3年度は3754人であるのに対し,令和4年度は3367人であって(法務省HPの「令和4年司法試験の出願状況について(速報値)」参照),令和4年度の出願者数は昭和26年度の出願者数である3668人を下回ってしまいました(法務省HPの「旧司法試験第二次試験出願者数・合格者数等の推移」参照)。
    そのため,令和4年度司法試験においても受験者数の減少に歯止めがかかる見込みは全くありません。
(2) したがって,基本給付金は学資金に該当すると解することで,法曹人材確保の充実・強化という修習給付金の制度趣旨を全うする必要性は年々高まっています。
5 小括
 以上より,基本給付金の支給対象となる司法修習生について所得制限がないことは,基本給付金の学資金該当性を否定する事情とはならないといえます。



* 想定問答5頁目にある文書です。

第7 基本給付金は学資金に該当しないという現時点の取扱いは,文部科学省及び厚生労働省と異なり,最高裁判所及び法務省が税務当局との間で司法修習生の利益を守るための協議をしなかった結果に過ぎないことからしても,現状の取扱いを維持すべき合理的理由はないこと
1 文部科学省は学生の利益を守るために税務当局との間で巧みな手段で協議をした結果,給付型奨学金の非課税化を実現したこと
(1) 文部科学省は,国税庁と協議する際,骨太の方針2018で言及されていた給付型奨学金の法的性格に関して,賄う予定の生活費に関する説明内容は維持しつつも,内閣法制局及び国会に対する説明と異なるニュアンスの説明をすることで,給付型奨学金は学資金に該当するという回答を国税庁から引き出しました。
    また,予算関連法律案の審議はしていない点で財務省及び国税庁の定期的なチェックが及んでいないと思われる平成30年11月13日の参議院文教科学委員会において,給付型奨学金の増額に関して「学業に専念するために必要な学生生活費を賄うための費用」という文部科学大臣の答弁を残した一方で,大学等修学支援法案の提出後は,給付型奨学金に関して「修学のために追加的に必要となる費用」という趣旨の国会答弁は残しませんでした(国会会議録検索システムにおいて「修学のために追加」及び「修学をする」でそれぞれ検索すれば分かります。)。
    さらに,大学等修学支援法案に関する国会審議の内容については定期的にチェックしている可能性がある財務省及び国税庁から,給付型奨学金に関して法案提出前の説明と異なるというクレームが来ないようにするためかもしれませんが,大学等修学支援法案に関する国会審議において,給付型奨学金に関して「学業に専念」及び「必要な学生生活費を賄うための費用」という文言を文部科学省が同時に使用することはありませんでした(国会会議録検索システムにおいて「学業に専念」で検索すれば分かります。)。
    その結果,文部科学省は,大学等修学支援法が成立する前の段階で給付型奨学金は「学業に専念するために必要な学生生活費を賄うための費用」という趣旨の国会答弁を残す一方で,財務省の同意を得た上での立法措置を取ることもなければ,給付型奨学金は「修学のために追加的に必要となる費用」であるという国会答弁を残すこともないまま,給付型奨学金の非課税化を実現しました。
(2) 文部科学省は,甲南大学法科大学院のA種特待生の給付奨学金(月額15万円),及び京都産業大学法科大学院(令和2年9月30日廃止)がかつて行っていた自校出身の司法修習予定者に対する一律200万円の支援金の一括給付(「法科大学院を考える皆さんへ ご存知ですか?法科大学院生に対する様々な支援制度」24頁参照)いった法科大学院独自の給付型奨学金制度の説明を避けることで,これらの手厚い給付型奨学金が雑所得の課税対象として税務当局に把握されていない状態を維持することに成功しました(国税庁において令和2年度法科大学院関係状況調査における「11 修学に係る経済的負担の軽減を図るための措置」も把握していないことにつき令和3年12月16日付の国税庁長官の不開示決定通知書参照)。
    また,給付型奨学金の金額は政令事項です(独立行政法人日本学生支援機構法17条の2第2項「学資支給金の額は、学校等の種別その他の事情を考慮して、政令で定めるところによる。」)から,文部科学省が将来,給付型奨学金の増額に関して独立行政法人日本学生支援機構法施行令の改正を発案するために財務省及び国税庁との協議を行う際,給付型奨学金は「学業に専念するために必要な学生生活費を賄うための費用」という趣旨の国会答弁だけが存在することは大きな意味を持つといえます。
    そのため,文部科学省は,給付型奨学金の非課税化以外の点でも,学生の利益を守るという観点から税務当局との間で協議をしたといえます。
2 厚生労働省は医師の利益を守るために税務当局との間で巧みな手段で協議をした結果,医師の修学等資金の債務免除益の非課税化を実現したこと
(1)ア 地域枠は,平成22年度より都道府県の地域医療再生計画に位置付けた医学部定員増であり,大学医学部が設置する「地域医療等に従事する明確な意思を持った学生の選抜枠」であって(医療法第三十条の二十三第二項第五号に規定する取組を定める省令2号参照),都道府県が設定する奨学金の受給が要件となっています。そして,平成22年度地域枠入学定員は313名であり,平成28年度以降,新たな医師として地域医療等に貢献することが期待されていました(平成27年10月16日付の厚生労働省の宿題返し2頁参照)。
    ところで,平成28年改正前の所得税法9条1項15号は「学資に充てるため給付される金品(給与その他対価の性質を有するものを除く。)」と定めていたため,債務免除の要件として指定する卒業後の勤務先が修学等資金の貸与をした当該地方公共団体等が運営等を行う医療機関に限定されている場合,債務免除益が学資金に該当しないために給与所得として課税されることになっていました。
    そのため,厚生労働省としては,所得税法9条1項15号につき,平成28年度の税制改正において,債務免除の要件として指定する卒業後の勤務先が修学等資金の貸与をした当該地方公共団体等が運営等を行う医療機関に限定されている場合についても,債務免除益が学資金に該当するという内容に改正することを財務省に要望しました。
イ 厚生労働省は,平成28年度の税制改正に向けて財務省ヒアリングを受けた際,医学生等に事業として貸与した修学等資金の債務免除益に関して都道府県が行う事業において医師の修学等資金の貸与額が3000万円を超えるものが多数存在すること(河合塾 医進塾HP「給費生・特待生・奨学生入試を実施する私立大学一覧2022」参照)に一切言及することなく,市町村が行うすべての事業において医師の修学等資金の貸与額は2385万円(平均的な私立大学の授業料×6年間+入学金+月10万円×6年間で計算したもの)の範囲内に収まるという趣旨の説明をすることで(「平成27年11月19日付の厚生労働省の宿題返し資料」2頁参照),医師の修学等資金は看護師と同様に課税しない取扱いとすることに対する同意を財務省から引き出しました。
    その結果,厚生労働省は,平成28年の所得税法改正により,地方公共団体が医学生等に貸与した修学等資金に係る債務免除益の非課税化を実現しました。
(2) 医学部定員に占める地域枠等の数・割合は増加してきていますから,医学生等に対する修学資金の貸与総額も増え続けている(第37回医師需給分科会(令和3年3月4日開催)の資料「これまでの医師偏在対策について」参照)のであって,平成28年の所得税法改正による債務免除益の非課税化はますます重要なものになっていると思います。
    ところで,厚生労働省HPには,第35回医師需給分科会(令和2年8月31日開催)の資料として,「地域枠の従事要件と奨学金について」等が載っているものの,都道府県修学資金の貸与額の規模への言及はありませんし,医師需給分科会の他の開催日の資料でも都道府県修学資金の貸与額の規模への言及は確認できません。
    そのため,医学生等に対する修学資金の貸与額の規模に関して法案提出前の説明と異なるというクレームが来ないようにするためかもしれませんが,厚生労働省としては,都道府県修学資金の貸与額の規模については一切把握していないという立場を取っているようです。

厚生労働省の,平成27年10月16日付の宿題返しの資料の一部です。

3 最高裁判所及び法務省は,司法修習生の利益を守るために税務当局との間で協議をしなかったこと
(1) 「法曹志願者数の減少は,法曹の給源である法曹志願者や司法修習生の質の低下を招き,ひいては有為な法曹の減少につながりかねないものであるから,公共的・公益的使命を有する法曹の役割の重要性にかんがみ,経済的不安による法曹志望の阻害要因の除去を図る」ために,修習給付金制度が発案されました(「修習給付金(仮称)について」参照)。
    また,修習給付金制度は、司法修習生に給与を支給していたかつての給費制が復活したものではなく,貸与制度と併存する新たな給付金制度ですし(平成29年4月18日の参議院法務委員会の国会答弁資料参照),給与の名称として「給付金」という用語が用いられている事例もありません(「「修習給付金(仮称)」の名称について」参照)から,給費制に基づく給与が給与所得であったことは,修習給付金が学資金であることと何ら矛盾するものでありません。
 そのため,司法修習制度を運営している最高裁判所,及び司法修習制度を定める裁判所法を所管している法務省(法務省HPの「法務省所管の法律」参照)としては,経済的不安による法曹志望の阻害要因の除去を一層図るために,修習給付金が学資金に該当するという主張を税務当局との間で本格的に行うことで,司法修習生の利益を守るための協議を行うべきであったといえます。
(2) それにもかかわらず,最高裁判所は,文書を作成するほどの複雑な内容の検討をすることもないまま,修習給付金のうち基本給付金及び住居給付金について必要経費として控除することができる費用は存在しないと判断したり(平成30年度(最情)答申第77号(平成31年3月15日付)参照),修習給付金の支給に伴い必要となる所得税等に関する手続については住所地を管轄する税務署に問い合わせるなどしてくださいと司法修習予定者に伝えたり(71期司法修習生向けの修習給付金案内27頁等参照),修習給付金の税務上の取扱いについては最終的に税務当局が判断すべき事項であると考えたりしています(令和2年度(最情)答申第26号(令和2年10月27日付)参照)から,税務当局との間で一切協議はしていないと思います。
    また,法務省は,修習給付金の税務上の取扱いに関して,税務当局との間で文書を作成した上での協議まではしませんでした(平成29年8月29日付の国税庁長官の不開示決定通知書参照)。
(3) 結果として,最高裁判所及び法務省は,司法修習生の利益を守るために税務当局との間で協議をしなかったといえます。
4 小括
    したがって,基本給付金は学資金に該当しないという現時点の取扱いは,税務当局との間で所管する業界の利益を守るための協議を巧みな手段で行った文部科学省及び厚生労働省と異なり,最高裁判所及び法務省が税務当局との間で司法修習生の利益を守るための協議をしなかった結果に過ぎないからしても,現状の取扱いを維持すべき合理的理由はないといえます。
第8 その他の主張
 修習給付金案内の記載は,基本給付金の税務上の取扱いを決定する理由とはならないこと
(1) 71期司法修習生向けの修習給付金案内は,司法研修所事務局総務課・経理課が,文書を作成するほどの複雑な内容の検討をすることもなく決定した,71期司法修習生に対して周知すべき内容を記載したものにすぎません。
    そして,移転給付金に関するものではあるが,司法修習生に対する給付の税務上の取扱いについては,最終的には税務当局が判断すべき事項であると最高裁判所事務総長は考えています。
    また,修習給付金が非課税所得又は雑所得に該当するかどうかに関する法務省と国税庁の協議文書が存在するわけでもありません。
    そのため,修習給付金案内の記載をもって,基本給付金の給付者である国の最終的な考えが示されたとはいえません。
(2) 修習給付金の支出者は最高裁判所であるし,最高裁判所における会計法13条1項の支出負担行為担当官は最高裁判所事務総局経理局長である(裁判所会計事務規程別表第二・二)ところ,修習給付金案内の作成者は司法研修所であって,最高裁判所事務総局経理局長ではありません。
    また,文書事務における知識付与を行うためのツールの改訂版(平成31年3月7日付の配布文書)の「司法行政文書の種類」によれば,法令の解釈を示す司法行政文書は「通達」です。
    そのため,修習給付金案内が法令の解釈を示す司法行政文書ということはできないと思います。
(3) 修習給付金案内は,司法修習生としての採用内定通知の約1週間後に,他の資料と一緒に司法研修所から一方的に普通郵便で送付される資料であって,司法修習予定者としては,税務上の取扱いに関する司法研修所の認識を通告されただけです。
    そして,修習給付金案内には,「司法研修所及び実務庁会においては,問合せに答えることはできません。」とか,「詳細は,税務署に問い合わせるなどして確認して下さい。」と記載されていることからすれば,司法修習予定者又は司法修習生が自分で税務署に問い合わせた場合,税務上の取扱いに関して修習給付金案内の記載とは異なる理解に至る可能性もあったといえます。
(4) したがって,修習給付金案内の記載は,基本給付金の税務上の取扱いを決定する理由とはならないといえます。

2 基本給付金が「学資として支給する資金」と明記されていないことは,学資金への該当性を否定する理由とはならないこと
    経済的理由により修学に困難があるものを対象とする日本学生支援機構の給付型奨学金は,「学術又は技芸の習得に専念する目的で使用される生活費」という意味での「学資」として支給される資金である(甲31の4)ことが日本学生支援機構法17条の2第1項に明記されているに過ぎません。
    そのため,基本給付金が「学資として支給する資金」と明記されていないことは,学資金への該当性を否定する理由とはならないといえます。
3 基本給付金について非課税とする旨の立法上の措置が講じられなかった理由が異なること
    法務省が考えるところの,修習給付金について非課税とする旨の立法上の措置が講じられなかった理由が分かる文書は,衆議院法務委員会における国会答弁資料,及び「修習給付金を受ける司法修習生の社会保険及び税務上の取扱いについて」(甲5・6頁ないし9頁)だけである(甲46の1)。
    しかし,これらの資料には,修習給付金について非課税とする旨の立法上の措置が講じられなかった理由は記載されていない(甲46の2参照)。
    そのため,職業訓練受講給付金とはその趣旨や目的,対象等を異にすることを理由として,基本給付金について非課税とする旨の立法上の措置が講じられなかったというわけでは全くない。
4 法科大学院奨学金との整合性を考慮すべきであること
(1) 甲南大学法科大学院のA種特待生の奨学給付金は月額15万円であるところ,司法修習生の学資金(学習費等に限ったもの)の平均額は約4万円であることからすれば,その想定使途の大部分は法科大学院の学習及び司法試験の受験勉強に専念するための生活費であるといえます。
    それにもかかわらず,当該奨学給付金は学資金に該当すると思います。
(2) 福岡大学法科大学院は,福岡大学法学部卒業後に福岡大学法科大学院に入学した成績優秀者に対し,福岡大学高田法曹育成基金奨学金から,原則3年間,月額12万円の給付奨学金を支給しています。
    そして,当該奨学金を受給して司法試験に合格した人が司法試験合格後に「忙しくアルバイトをする時間もなかった自分にとってこの奨学金は本当に助かりました」と福岡大学法科大学院関係者に話していたことからすれば,当該奨学金の想定使途の大部分は法科大学院の学習及び司法試験の受験勉強に専念するための生活費であるといえます。
    それにもかかわらず,当該奨学金は学資金に該当すると思われます。
(3)ア 平成27年9月当時,京都産業大学法科大学院は,同大学院を終了して司法試験に合格した後に司法修習生となる予定の人に対し,全員一律に200万円の支援金を一括給付していたところ,その想定使途の大部分は司法修習期間中の生活費であったと思われます。
    それにもかかわらず,当該支援金は一時所得(所得税基本通達34-1(5)の「法人からの贈与により取得する金品」)ではなく,学資金に該当していたと思われます。
イ 平成27年7月当時,龍谷大学法科大学院は,就学のために下宿等賃貸物件に居住せざるを得ない法科大学院生に対し,月額3万円を上限とする奨学金を給付していたところ,その想定使途は当然,生活費の一種としての家賃の支払のためであったと思われます。
    それにもかかわらず,当該奨学金は所得税法上の「学資金」に該当していたと思われます。
5 文化功労者年金の取扱いとの整合性を考慮すべきであること
    文化功労者に対して終身で支給する文化功労者年金(文化功労者年金法3条1項)の場合,文化功労者という地位に基づいて,個々の文化功労者の申請によることなく,また,その給付を受ける個々の文化功労者が実際に文化功労者年金を学問の修業のために必要としているか否かにかかわらず,一方的,かつ,一律に,定額(年額350万円)が給付されるものです。
    しかし,このような事情があるにもかかわらず,文化功労者年金は公益(文化の向上,学術の奨励政策)を目的として非課税所得とされている(所得税法9条1項13号)ことからすれば,同様の事情があることを理由として,修習給付金が公益(学術奨励)を目的として非課税所得とされている学資金に該当しないと解することはできません。
    そのため,このような文化功労者年金の取扱いとの整合性を考慮すべきであるといえます。

第9 結論
    よって,修習給付金に関する所得税更正処分取消請求事件の訴状(令和3年5月11日付)の主張内容をも考慮すれば,基本給付金は,学費負担が予定されていない司法修習生に対して所得制限なく一律に支給されるという事情があるにしても,日本学生支援機構の給付型奨学金と同様に非課税所得としての学資金であると思います。

第3部 その他

第1 給付型奨学金の位置づけが基本給付金の学資金該当性に与える影響
1 国税庁に対する説明内容を前提とした場合の影響
(1) 形式的に学資金に該当しない可能性が出てくること
ア 文部科学省の国税庁に対する説明内容を前提とした場合,給付型奨学金の位置づけは,学生の修学のために「学費に」追加して必要となる費用を賄うものとなります。
    そして,基本給付金の場合,司法修習に関して「学費」に相当するものはありませんから,ただそれだけの理由により学資金に該当しない可能性が出てきます。
イ 国税庁HPの「問9-3 学生に対して大学等から助成金が支給された場合の取扱い〔令和2年5月15日追加〕」では,学生に対して大学等から生活費を賄うために支給された支援金は,一時所得の収入金額になると説明されています(ただし,文部科学省との協議を経ていないことにつき令和4年3月9日付の国税庁長官の行政文書不開示決定通知書参照)ところ,このような説明は,給付型奨学金は「修学のために追加として必要となる費用」を賄うものであるという位置づけと整合的です。
(2) 金額規模が妥当なものといいにくくなること
ア 学資金としての給付型奨学金は「修学のために追加として必要となる費用」を賄うであるという位置づけですから,学資金として非課税所得となる生活費は,名古屋国税局の文書回答事例(平成24年3月9日付)にあるとおり「下宿代や通学費用、食費、教科書や医学書の購入費用など」といったもの骨太の方針2018・11頁の表現でいえば,住居・光熱費(自宅外生に限る。),通学費,食費(自宅外生に限って自宅生分を超える額を措置。),修学費)に限られるのであって,課外活動費,保健衛生費,通信費を含むその他日常費及び大学等の受験料(以下「課外活動費等」といいます。)は除外されると解するのが自然であると思います。
    そのため,課外活動費等と類似の費用まで賄う基本給付金の金額規模は,非課税所得としての生活費の金額規模として社会通念上妥当なものとはいいにくくなります。
イ 文部科学省と国税庁の協議では,給付型奨学金は最大でも月額10万円を超えないとされたため,この点に関して国税庁から問題提起されることはありませんでした(給付型奨学金を非課税とすることについて(平成30年11月16日付の文部科学省の文書)参照)。
2 内閣法制局に対する説明内容を前提とした場合の影響
(1) 学資金に該当する可能性が出てくること
    文部科学省の内閣法制局に対する説明内容を前提とした場合,給付型奨学金の位置づけは,「進学後の学生生活を送るのに必要な生活費を賄うもの」となります。
    そのため,基本給付金が学資金に該当する可能性が出てくるものの,学業又は司法修習に専念するためのものという類似性が欠けるという点では,学資金に該当しにくくなります。
(2) 金額規模が妥当なものといいやすくなること
    学資金としての給付型奨学金は「進学後の学生生活を送るのに必要な生活費を賄うもの」であるという位置づけですから,学資金として非課税所得となる生活費は,課外活動費,保健衛生費,通信費を含むその他日常費及び大学等の受験料まで賄うものといいやすくなります。
    そのため,課外活動費等と類似の費用まで賄う基本給付金の金額規模は,非課税所得としての生活費の金額規模として社会通念上妥当なものといいやすくなります。
3 国会に対する説明内容を前提とした場合の影響
(1) 学資金に該当しやすくなること
    学等修学支援法案提出前,又は大学等修学支援法成立後の文部科学省の国会に対する説明内容を前提とした場合,給付型奨学金の位置づけは,「使途の限定のない,学生が学業に専念するために必要な学生生活費を賄うもの」となります。
    そのため,司法修習生が司法修習に専念するために必要な生活費を賄う基本給付金は,給付型奨学金と同様の目的を有するわけですから,学資金に該当しやすくなります。
(2) 金額規模が妥当なものと一層いいやすくなること
    給付型奨学金は「使途の限定のない,学生が学業に専念するために必要な学生生活費を賄うもの」であるという位置づけですから,学資金として非課税所得となる生活費は,学業に専念したい学生がアルバイト等の収入を得る必要がないようにするため,課外活動費,保健衛生費,通信費を含むその他日常費及び大学等の受験料まで賄うものと解するのが自然であると思います。
    そのため,課外活動費等と類似の費用まで賄う基本給付金の金額規模は,非課税所得としての生活費の金額規模として社会通念上妥当なものと一層いいやすくなります。


第2 司法修習生に関する裁判所法の条文
・ 裁判所法の「第四編 裁判所の職員及び司法修習生」の「第三章 司法修習生」は以下のとおりです。
(採用)
第六十六条 司法修習生は、司法試験に合格した者の中から、最高裁判所がこれを命ずる。
② 前項の試験に関する事項は、別に法律でこれを定める。
(修習・試験)
第六十七条 司法修習生は、少なくとも一年間修習をした後試験に合格したときは、司法修習生の修習を終える。
② 司法修習生は、その修習期間中、最高裁判所の定めるところにより、その修習に専念しなければならない。
③ 前項に定めるもののほか、第一項の修習及び試験に関する事項は、最高裁判所がこれを定める。
(修習給付金の支給)
第六十七条の二 司法修習生には、その修習のため通常必要な期間として最高裁判所が定める期間、修習給付金を支給する。
② 修習給付金の種類は、基本給付金、住居給付金及び移転給付金とする。
③ 基本給付金の額は、司法修習生がその修習期間中の生活を維持するために必要な費用であつて、その修習に専念しなければならないことその他の司法修習生の置かれている状況を勘案して最高裁判所が定める額とする。
④ 住居給付金は、司法修習生が自ら居住するため住宅(貸間を含む。以下この項において同じ。)を借り受け、家賃(使用料を含む。以下この項において同じ。)を支払つている場合(配偶者が当該住宅を所有する場合その他の最高裁判所が定める場合を除く。)に支給することとし、その額は、家賃として通常必要な費用の範囲内において最高裁判所が定める額とする。
⑤ 移転給付金は、司法修習生がその修習に伴い住所又は居所を移転することが必要と認められる場合にその移転について支給することとし、その額は、路程に応じて最高裁判所が定める額とする。
⑥ 前各項に定めるもののほか、修習給付金の支給に関し必要な事項は、最高裁判所がこれを定める。
(修習専念資金の貸与等)
第六十七条の三 最高裁判所は、司法修習生の修習のため通常必要な期間として最高裁判所が定める期間、司法修習生に対し、その申請により、無利息で、修習専念資金(司法修習生がその修習に専念することを確保するための資金であつて、修習給付金の支給を受けてもなお必要なものをいう。以下この条において同じ。)を貸与するものとする。
② 修習専念資金の額及び返還の期限は、最高裁判所の定めるところによる。
③ 最高裁判所は、修習専念資金の貸与を受けた者が災害、傷病その他やむを得ない理由により修習専念資金を返還することが困難となつたとき、又は修習専念資金の貸与を受けた者について修習専念資金を返還することが経済的に困難である事由として最高裁判所の定める事由があるときは、その返還の期限を猶予することができる。この場合においては、国の債権の管理等に関する法律(昭和三十一年法律第百十四号)第二十六条の規定は、適用しない。
④ 最高裁判所は、修習専念資金の貸与を受けた者が死亡又は精神若しくは身体の障害により修習専念資金を返還することができなくなつたときは、その修習専念資金の全部又は一部の返還を免除することができる。
⑤ 前各項に定めるもののほか、修習専念資金の貸与及び返還に関し必要な事項は、最高裁判所がこれを定める。
(罷免等)
第六十八条 最高裁判所は、司法修習生に成績不良、心身の故障その他のその修習を継続することが困難である事由として最高裁判所の定める事由があると認めるときは、最高裁判所の定めるところにより、その司法修習生を罷免することができる。
② 最高裁判所は、司法修習生に品位を辱める行状その他の司法修習生たるに適しない非行に当たる事由として最高裁判所の定める事由があると認めるときは、最高裁判所の定めるところにより、その司法修習生を罷免し、その修習の停止を命じ、又は戒告することができる。

第3 関連記事その他
1 旧司法試験の場合,昭和31年度から短答式試験が導入されましたところ,昭和30年度につき出願者数は6347人・最終合格者数は264人(対出願者合格率は4.16%)であり,昭和31年度につき出願者数は6737人・最終合格者数は297人(対出願者合格率は4.41%)でした(法務省HPの「旧司法試験第二次試験出願者数・合格者数等の推移」参照)。
2 修習給付金制度の立案段階における法務省と国税庁の担当者協議では,修習給付金の金額規模等から学資金と直ちに解するには難しい面があるのではないかという指摘がありました(「修習給付金を受ける司法修習生の社会保険及び税務上の取扱い」参照)。
3(1)  大学院設置基準42条の3は,「大学院は、授業料、入学料その他の大学院が徴収する費用及び修学に係る経済的負担の軽減を図るための措置に関する情報を整理し、これを学生及び入学を志望する者に対して明示するよう努めるものとする。」と定めています(運用の詳細につき,学校教育法施行規則及び大学院設置基準の一部を改正する省令の施行等について(令和元年9月26日付の文部科学省高等教育局長通知)参照)。
(2) 文部科学省HPに載ってある「修学に係る経済的負担の軽減を図るための措置」(法科大学院生に関するもの)のうち,どの措置が雑所得として課税されているかが分かる文書は国税庁に存在しません(令和3年12月16日付の国税庁長官の不開示決定通知書参照)。
(3) 関西医科大学の藤森民子賞(一般選抜(前期)合格者のうち最優秀成績で入学した学生に対して500万円を贈呈するというもの)が学資金に該当するかどうかに関する文書は大阪国税局に存在しません(令和3年12月8日付の大阪国税局長の不開示決定通知書)。
4 経済産業省HPの「不安な個人,立ちすくむ国家~モデル無き時代をどう前向きに生き抜くか~」(平成29年5月 次官・若手プロジェクト)30頁には,「日本は,少子高齢化の影響を考慮したとしても高齢者向け支出に比べて現役世代向け支出が低い」と書いてあります。
5 日弁連HPに以下の資料が載っています。
・ 新第65期司法修習生に対する生活実態アンケート資料
・ 「司法修習生に対する経済的支援案提出のお願い」への回答(平成26年1月24日付)
6 外国人技能実習生の場合,日本への入国直後の講習期間中に講習手当が支払われますところ,講習手当は生活実費ということで所得税の対象外になっています(厚生労働省HPの「監理団体による監査のためのチェックリスト」参照)。
7 以下の記事も参照して下さい。
(社会保険及び税務に関する公式見解)
・ 修習給付金に関する司法研修所の公式見解を前提とした場合の,修習給付金に関する取扱い
・ 修習給付金は必要経費のない雑所得であるとした国税不服審判所令和3年3月24日裁決
・ 修習給付金の課税関係に関する大阪国税局の見解
・ 司法修習生に対する旅費及び移転給付金について課税関係は発生しないこと
・ 司法修習生の旅費に関する文書
・ 修習給付金を受ける司法修習生の社会保険及び税務上の取扱い
・ 司法修習終了翌年の確定申告
(社会保険及び税務に関する公式見解に反対する見解)
・ 修習給付金は非課税所得であると仮定した場合の取扱い
→ 修習給付金は学資金(所得税法9条1項15号)に該当するという見解です。
・ 修習給付金は必要経費を伴う雑所得であると仮定した場合の取扱い
・ 修習給付金の税務上の取扱いについて争う方法等
・ 修習給付金の課税関係に関する審査請求の理由書
・ 修習給付金に関する所得税更正処分取消請求事件の訴状(令和3年5月11日付)
(その他修習給付金関係)
・ 修習給付金制度が創設されるまでの経緯
・ 司法修習生の修習給付金の名称に関する説明
・ 司法修習生の修習給付金の導入理由等
・ 修習給付金制度を創設した平成29年の裁判所法改正法に関する,衆議院法務委員会における国会答弁資料
・ 修習給付金制度を創設した平成29年の裁判所法改正法に関する,参議院法務委員会における国会答弁資料
・ 修習給付金制度等に関する規則案についての司法研修所事務局長の説明
・ 月額13万5000円の基本給付金の根拠
・ 月額3万5000円の住居給付金の根拠
・ 修習給付金と最低賃金等との比較
・ 生活保護受給者と,修習給付金及び修習専念資金との比較
・ 司法修習生の給費制と修習給付金制度との比較等
・ 谷間世代(無給修習世代)に対する救済策は予定していない旨の国会答弁
(その他)

・ 昭和22年の司法修習生の給費制導入
 司法修習生の給費制に関する,平成10年の裁判所法改正
・ 司法修習生の給費制に関する,平成16年の裁判所法改正
 司法修習生の給費制を廃止した,平成16年の裁判所法改正の経緯
→ 大分地裁平成29年9月29日判決の「平成16年改正に至るまでの経緯」からの抜粋でありますところ,判決文を見る限り,裁判所法の一部を改正する法律案について(司法修習生に対する修習資金の貸与制)と題する法務省文書(平成16年9月13日付)といった法務省の法律案審議録は書証として提出されなかったみたいです。
 司法修習生の給費制に関する,平成22年の裁判所法改正及びその後の予算措置
・ 平成23年11月採用の新65期からの,修習資金貸与制の導入
・ 修習資金の返還の猶予
→ 平成24年の裁判所法改正による,修習資金の変換猶予事由の拡大について説明しています。
・ 66期ないし70期司法修習開始時点における,修習資金の貸与申請状況
・ 修習資金貸与金の返還状況
・ 修習専念資金
・ 修習専念資金の貸与申請状況
・ 司法修習生の身分に関する最高裁判所事務総局審議官の説明
→ 法務省民事局長の国会答弁として,「司法修習生は、先ほどからもお話がありますように、公務員ではございませんで、裁判所法上、法曹に必要な能力を身につけるための修習を行うべき者と位置づけられております。このような司法修習生の法的地位は、平成十六年の裁判所法改正により給費制から貸与制に移行しても何ら変更されていないものと承知しております。」というものがあります。
・ 平成31年3月提出の,法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律等の一部を改正する法律案の説明資料


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